バスケU15王者となった四日市メリノール中 「バスケ界の大谷翔平」を育てる熟慮とは?
山崎HCはメリノール中に赴任して5年目のベテラン 【(C)JBA】
第4回を迎えるジュニアウインターは中学の部活、クラブチームが垣根を越えて対戦する全国大会。第1回は秋田市立城南中、第2回はGOD DOOR(街クラブ)、第3回はライジングゼファー福岡U15(Bユース)と三者三様の王者が過去に誕生している。
そして、ここから巣立った選手が高校バスケのウインターカップでも活躍する大きな流れがある。例えば男子は第1回大会で無限NO LIMIT GUNMAを準優勝に導いた川島悠翔が、同年末に福岡大大濠の全国制覇に貢献。現在オーストラリアのNBAアカデミーでプレーし、23年2月には17歳にして日本代表候補にも選出されている。昨年12月末のウインターも崎濱秀斗(福岡第一)、渡邉伶音(福岡大大濠)、瀬川琉久、佐藤凪(東山)、平良宗龍(開志国際)といった『ジュニアウインター卒業生』が目立っていた。
今大会も今までと同様……いやそれ以上の逸材が顔を揃えていた。特に圧巻だったのが大会を制した四日市メリノール学院中の逸材たちと、山崎修ヘッドコーチの手腕だった。
メリノールが中学二冠を達成
メリノールには23年9月の「FIBA U16アジア選手権大会2023」に出場した選手が3名いる。それが白谷柱誠ジャック、本田蕗以、中村颯斗で、高1と高2の早生まれが主力のチームに下の世代から参加していた。今大会は白谷がセンター(C)、本田がパワーフォワード(PF)、中村はシューティングガード(SG)でプレーしている。
彼らは先発5名のうち「最小」の中村が178センチというスケールの大きなチームで、しかも全選手がプレーに関わる、ボールに触る、得点に絡むスタイルだった。
山崎HCは大会中にこうコメントしていた。
「才能のある子供たちなので、小ぢんまりして勝つのではなくて、堂々とこの子たちの能力を生かしたプレーで、高校に受け渡したい」
ポイントガード(PG)の櫻井照大が起点といえば起点だが、とはいえ潰しどころがまったくないチームだった。例えば本田は190センチの大型選手だが、ガードのようなボール運びをしつつ、3ポイントシュートも積極的に打っていく。スモールフォワード(SF)の藤原弘大も含めて5人がプレーに関わる全員バスケだった。
白谷と櫻井は三重、本田は長崎、中村と藤原は兵庫から入学した選手だが、まずこのレベルの才能が一つの中学に揃ったことが稀有だろう。また「入学するまでシュートは苦手だった」という中村がシューターとして活躍したように、メリノール中は選手をその先のカテゴリーで通用するオールラウンダーに育てている。
「個人で打破する力」を持つ大型選手
中村颯斗(写真左)はシュート力を生かしてチームの得点源となった 【(C)JBA】
「形でプレスブレイクやオフェンスを教えるのではなくて、個人で打破する力を付けないと、体格に劣る日本人選手は育たない」
190センチは中学生年代なら大型だが、プロや代表に行けばガード、ウイングとしてプレーするサイズ。中学で勝つことだけを考えるなら不要でも、上を目指すなら個人で打開するスキルはいずれ必要になる。
全体練習の後にそれぞれが行うシューティング(シュート練習)も、決して生徒任せにしない。
「僕は一番に体育館に行って、最後に出ます。単身赴任ですから。僕が子供より早く体育館を出ることは、用事があるとき以外ありません。シュート練習が一番大事で、指導者が『シュートを打っておけ』と言って、教官室に行くようではいけません。一番いいスタンス、いいフォームでシュートを打たせないとダメです」
決勝は先発5名が全員二ケタ得点を決めているが、メリノールはどの試合も「全選手が均等にスコアする」チームだった。
PGの櫻井は自身のプレーメイクについてこう説明する。
「その日一番調子がいい人にボールを集めて、あと流れの悪いときは一旦ジャック(白谷)が安心できるので預けます。ただボールが来ないと怒る子もいますね(笑)」
メリノールを苦しめたNOSHIRO
「空けば打つ、抜けられれば出る、(相手の守備が)出てくればキックアウト、ローテーションしたらエクストラパス……です。あと走って苦しいことをしたら、バックコートからの走り出しを一生懸命したら、ワイドオープンでもらえる。そうやって自分でチャンスを作った選手が、いい思いをするバスケットをしたい」
メリノールのオフェンスはそれぞれの自由度が高く、ボールを持った選手が判断をするスタイルだ。一方で原理原則が身についているからこそ、ボールがシェアされながらも滞りなく動き、全選手が得点に絡む状況になっていた。
そんなメリノールを苦しめたチームもある。2回戦、3回戦とも40点差以上で勝利したが、準々決勝のNOSHIRO BASKETBALL ACADEMY(秋田)戦は76-69の接戦だった。前半を33−41とビハインドで終え、スリーポイントも入らない苦しい展開だったが、後半に守備がアジャストして逆転する内容だった。
NOSHIROは1回戦でZIPS BASKETBALL ACADEMY(群馬)、3回戦でボンズ茨城とアフリカ人留学生がいるチームを一ケタ点差の接戦で退けたチーム。メリノールより試合数が1つ多く、そこに至る対戦相手もタフだった。サイズや個々のスキルはメリノールと同レベルで、193センチの千田健太、189センチでU16代表の高橋歩路といった逸材がいた。今思えばNOSHIROも同格のレベルで、メリノールの準々決勝は「事実上の決勝」と言い得るカードだった。
大器・白谷の未来のために
白谷は国際大会から得たものをこう振り返る。
「国際大会の相手は日本と比べ物にならないほどレベルが高いので、それを踏まえて練習することによって、自分の力をつける、将来を広げる部分につながりました」
今大会の初戦はベンチ入りから外れたが理由は発熱の伴う体調不良。山崎HCが「もう(熱は)下がっているけど、無理をさせられない」と説明したように大事を取った結果だった。大一番のNOSHIRO戦から復帰すると、そのまま決勝戦まで3試合プレーして優勝に貢献している。
ベテラン指揮官は「選手にケガをさせたくない」と繰り返し口にしていた。コンディションが十分でない中で無理をすると、ケガのリスクはどうしても上がる。仮に大きなケガをすれば、成長のための時間が奪われることになる。
「怪我をさせると、コーチとしては負ける以上に嫌です。生徒は地道なトレーニングを嫌がるし、シュート打ったり、こんなこと(スキルのトレーニング)をしたいんですけど、(地道なメニューが)この子たちのためかなと思っています。(予防、補強のトレーニングは)ストレッチから入れると4〜50分かけます。それにそういうトレーニングはリバウンドなどのパフォーマンスに生きます」
白谷は朝練にも参加させていない。理由は回復、成長のための睡眠を優先して考えているからだ。白谷は現在194センチの登録だが、この競技は「あと何センチ伸びるか」でプレーヤーとしての価値が変わる。
「自由参加ですしバス通学、電車通学があるから遠い子はさせません。ジャックも昔はさせていたけど、大きくさせないといけないですから」(山崎HC)