現地発! プレミア日本人の週刊リポート(毎週水曜更新)

三笘薫をめぐるブライトンと日本代表の綱引き これはエースとなったことで生じた“副作用”だ

森昌利

1月12日に開幕するアジア杯に臨む日本代表に、ケガで離脱中の三笘が招集された。ブライトンにしてみれば、この決定は望んでいなかったものだ 【Photo by Ryan Pierse/Getty Images】

 アジア杯に臨む日本代表メンバーが元日に発表され、そこには年末に左足首を痛めて戦線離脱中の三笘薫も含まれていた。所属するブライトンは、攻撃の核であるこの日本人MFをクラブの医療スタッフのもとで治療に専念させたいという意向を持っていただけに、代表チームの決断は意に反したものだ。クラブとしては、故障を悪化させかねない無茶な起用だけは避けてほしいと願うしかない。

異様なほど過密な年末年始日程は英国の伝統

 選手に極限のフィットネスを要求する現代サッカーの超アスレティックな基準からすると、英国の伝統的な年末年始日程は過激そのものであると言うしかない。しかもプレミアリーグのフットボールは極限の真剣勝負を売り物にしている。選手への負担はこの上ない。

 しかし、英国人は伝統を変えたがらない。この国でフットボールは労働者階級、すなわち一般大衆の熱狂的な支持を集めたことで一気に国技となった。だからクリスマスの翌日の休日、ボクシングデーの試合はフットボール創世記の1860年から始まり、19世紀末には労働者のクリスマス休暇に合わせて試合を密集させ、どんどん集客を伸ばした。

 その名残を現代に残すのが、全世界の中でも異様なほど過密なプレミアリーグの年末年始日程なのである。

 けれども選手も人間。また西洋諸国のクリスマスは家族と親密な時間を過ごすものという決まりがある。12月28日(現地時間、以下同)にブライトンとアウェーで戦い、後半30分までに4点を奪われたトットナムの惨敗を見ると、さすがのアンジェ・ポステコグルー監督もクリスマス直後の試合で、少し規律を緩めたのかと勘繰ってしまった。しかしそういうことも含めて、イングランドの年末年始の試合結果は本当に予想しづらいのだ。

“最長”の全治6週間でも決勝トーナメント開始まで4日足りないだけ

三笘は12月21日のクリスタルパレス戦で左足首を負傷。ブライトンのメディカルチームは全治4~6週間と診断した 【Photo by Sebastian Frej/MB Media/Getty Images】

 ご存知のように三笘薫はその前節、12月21日に行われたクリスタルパレス戦で左足の足首を痛めて、2023年最後の公式戦となったトットナムとのリーグ戦を欠場した。またトットナム戦前日の会見でロベルト・デ・ゼルビ監督が「全治4~6週間」と発表したことで、26歳日本代表MFのアジア杯出場が突如として暗雲に包まれてしまった。

 アジア杯優勝を目指す日本代表チームにとって、エースが治癒するまでに4週間かかるのか6週間なのか、この“2週間”の幅は大きい。もしも4週間で完治するのなら、ケガをした12月21日から数えて1月18日が26歳MFの復帰日となる。

 となれば、1月14日に行われるベトナムとのグループ戦初戦には間に合わないが、続く19日のイラク戦は出場可能。もう少し踏み込んで言うと、三笘抜きのグループ戦突破を前提とすれば、決勝トーナメントが始まる28日まで、4週間にプラスしてさらに10日間の猶予が与えられることになる。

 それならばブライトンのメディカルチームが“最長”と診断した全治6週間にもわずかに4日足りない計算だ。そこで三笘が絶対に出ないと分かってはいたが、トットナム戦に出かけて、デ・ゼルビ監督に「4週間で治癒すれば、アジア杯の決勝トーナメントには出場できる可能性が高まるのではないか?」と直接質問をぶつけた。

 もちろん、44歳イタリア人監督が上機嫌でこの質問に答えてくれたわけではない。実際、どんな場合でも、監督にとって選手のケガの詳細を聞かれるのは嫌なものだろう。手薄になったポジションがどの程度の期間空くのか、そんな重要な情報を公にして敵と共有したくない。しかも三笘のようなエース的存在のアタッカーならなおさらだ。

「私も4週間以内に怪我が完治してくれたらと思っているが、ブライトンのメディカルチームが全治4~6週間と診断した」

 この第一声を聞いた瞬間、昨日話したばかりのことを「またなぜ掘り返すんだ」というニュアンスを感じた。しかし質問したのが日本人の筆者。三笘がアジア杯に出場できるか否かという問題の大きさも理解するから対応したのだろう。

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著者プロフィール

1962年3月24日福岡県生まれ。1993年に英国人女性と結婚して英国に移住し、1998年からサッカーの取材を開始。2001年、日本代表FW西澤明訓がボルトンに移籍したことを契機にプレミアリーグの取材を始め、2024-25で24シーズン目。サッカーの母国イングランドの「フットボール」の興奮と情熱を在住歴トータル29年の現地感覚で伝える。大のビートルズ・ファンで、1960・70年代の英国ロックにも詳しい。

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