星野と落合のドラフト戦略 元中日スカウト部長の回顧録

15年、落合GMも同情した現場戦力 黄金時代に抱いていた「5年後、10年後が心配」が現実に・・・

中田宗男

他球団の主力になった選手たち

 オリックス1位の青学大・吉田正尚(現レッドソックス)は、強烈なバッティングをしていたが、1位でないと獲れない選手だったから、高橋1位を予定していたウチには縁がなかった。オリックスもこの頃はピッチャーが欲しかったはずなのによく1位でいったなと思ったものだが、結果的にリーグ二連覇の主力に育った。ウチも吉田のような攻撃に特化した選手も獲らなければいけなかったのに、獲りにいけなかった。長距離砲が育ちにくいナゴヤドームだが、吉田ほどの選手ならば球場に関係なく打っていただろう。

 阪神5位の帝京大・青柳晃洋は担当スカウトの石井さんが「このピッチャー、バッターはめちゃくちゃイヤがるよ」と評価していた。腕も振れるし球威もある。内角胸元に投げるけどぶつけない、思い切りも良い。「目をつぶって獲ってくれ」と言われていたが、この年の戦略上、獲りきれなかった。

 広島5位の王子製紙・西川龍馬は欲しい選手だったが、落合さんは評価しなかった。バッティングは良いと評価しつつも、ショートの守備で引っかかる部分があるようだった。高卒3年目で伸びしろも期待できた選手だったが、「打てるけど使いづらい。現状を考えると守れない選手は厳しい。候補から外して考えてくれ」という反応だった。

 日本ハム2位の新日鉄住金かずさマジックの左腕、加藤貴之も評価していた。だが2位では手が出なかった。フォームが柔らかくてボールの質も良かった。だがスピードで抑え込むより球のキレとコントロールで勝負するスタイルが、前年に獲っていた浜田と少し似ていたこともあり、上位指名は難しかった。

 楽天3位の早稲田大・茂木栄五郎は個人的にめちゃくちゃ欲しい選手だった。スカウト会議でも「茂木でいきましょう!」と私は散々名前を挙げた。2位か3位で消えるという予想だったが、落合さんは「良いけどなぁ……」という感じでもうひとつ評価していない様子だった。3位で木下が残っていなければ、おそらく私は『茂木栄五郎』と勝手に指名用紙に書いていたと思う。それくらい茂木も欲しい選手だった。

 ちなみにこの年は、後に明治大から広島にドラフト1位指名される森下暢仁が大分商業高にいた。ピッチャー経験が浅いながらも抜群のセンスを見せていて評価もしていたが、「明治大進学で固い」と担当スカウトから報告を受けていたので、夏の頃には指名リストから外れていた。

 オフには髙橋聡文がFAで阪神へ移籍した。チームを支えた大ベテランの山本昌、和田、小笠原も現役を引退し、選手兼任だった谷繁監督も引退して翌シーズンから監督に専念することになった。そういったこともまた、大学、社会人中心のドラフトに繋がった。

【写真提供:カンゼン】

「星野さんは人を残し、落合さんは結果を残した」。スカウト歴38年、闘将とオレ竜に仕え、球団の栄枯盛衰を見てきた男が明かすドラフト舞台裏。

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