西浦颯大『もう一回野球させてください神様』

22歳外野手が引退を決断した舞台裏 「ウルッときた」宗佑磨の行動と「大好きな」山本由伸との思い出

西浦颯大

ウルッときた宗さんの声出し

 その翌日のことです。京セラドームで行われたオリックス対楽天戦の試合前の円陣で、宗さんが、こんな話をしてくれました。

「昨日、僕らも一緒にやってきた西浦くんが、引退を発表しました。ああやって、彼みたいに野球がしたいと思っている若い子でも、野球ができないということになってしまう時があります。でも、そういうのはいつなるか、みんなわからないんですよ。
本当に今日、怪我をしてできなくなるかもしれないし。全員、そういう熱い気持ちを持って、1試合1試合取り組んでいってください。
 今日も、絶対に勝ちます。いや僕ら、勝たなきゃいけないんです! 最後まで諦めず戦っていきましょう! さあ行こう!」

 その映像を僕は球団のInstagramで見たんですが、ちょっとウルッときてしまいました。

「やってくれるな。カッケーな、あいつ」と思いましたね。先輩ですけど(笑)。


 宗さんは、一番仲がいいチームメイトでした。

 仲よくなったきっかけは……実はよく覚えていないんです(苦笑)。

 でも、宗さんはこんな話をしていました。

 僕が入団1年目だった年、それまで内野手だった宗さんが外野手に転向したんです。

その宗さんに、僕がロッカールームで、「ちょ、宗さん内野に戻ってくださいよ。オレ、試合に出られへんっすやん」と言ったらしいんです。それまであまりしゃべったこともなかったのに。

 いきなり先輩に向かって、「内野に帰れ」って、ヤバイやつですよね(笑)。

 それで宗さんは「なんだこいつ?」となったらしいんですけど、なぜかそこから一緒に行動することが多くなって、仲よくなりました。

 そのエピソードは覚えていないんですけど、僕は宗さんの姿勢や考え方がすごいなと、密かに尊敬していました。

 いつだったか、こんなことがあったんです。

 まだ宗さんが一軍に定着する前のことですが、打ち方が大きく変わって、急にノーステップ打法になりました。その時、一軍のコーチに、「お前、そんなんじゃ使わんぞ。前の打ち方のほうがいいから戻せ」と言われました。

 そしたら宗さん、「あ、じゃあ二軍でいいっす。僕はこれでいくんで」って。

 それを聞いていて、「すげーな!」と思いました。

 僕は、「こうしろ」と言われたら、「ハイ」とすぐに変えてしまうイエスマンだったので。

 僕は変に器用で、言われたことがすぐできてしまうから、言われるがままにコロコロ変えてしまっていた。でも宗さんは意外と不器用なんです。でもそういう人は、ハマったらすごい。

「自分しか信じない」みたいな、あの考え方、姿勢が、「カッケーな!」と思いましたね。

 宗さんとはよく遠征先のホテルの部屋で一緒に飲みながら、いろいろグチりあったりしました。そういう日常が楽しかったですね。


 9月25日の楽天戦の話に戻りますが、その日は3-2でオリックスが勝利し、初回に先制ホームランを放った宗さんと、シーズン15勝目を挙げた山本由伸さんが、お立ち台に上がりました。奇しくも、僕がすごくお世話になった2人の先輩でした。

 お立ち台で、その日の試合前の円陣のことを聞かれた宗さんは、こう言ってくれました。

「みなさんもご存じの通り、西浦選手が引退を決意したということで、僕らも、全員で一緒にやってきて、すごく残念な気持ちですし、彼の分も、最後まで戦って優勝したいなというふうに思っています」

 由伸さんも、こう続けてくれました。

「西浦が、最後のシーズンになってしまうので、西浦の現役最後のシーズンを、優勝で終われるように、精一杯頑張ろうと思いますので、ファンのみなさんも、一丸で応援よろしくお願いします!」

 由伸さんは、2021年、22年に2年連続で投手四冠を独占し、沢村賞、リーグMVPも連続受賞した日本のエースです。

 野球に関してはみなさんご存じの通り、ヤバイ人ですけど、普段は普通の、めちゃくちゃ優しい先輩です。

 僕は1年目にやらかしすぎたために、2年目まで遠征先では外出禁止で、みんなが外においしいものを食べにいくのを指をくわえて見ていました。でも由伸さんは、宿泊しているホテルの中ならいいだろうということで、ホテルの最上階の鉄板焼き屋さんに連れていってくれたり、いつも僕のことを気にかけてくれていました。本当に大好きな先輩です。

書籍紹介

【写真提供:KADOKAWA】

小学6年生でソフトバンクジュニアに選出されるなどセンス抜群の野球少年だった西浦颯大。
中学、高校と輝かしい経歴を歩み、オリックスではあのイチロー以来、10代でホームランを記録するなど華々しい野球人生を歩んでいた。

そんな“野球に愛された男”に突然の病魔が襲い掛かる……
国の指定難病「特発性大腿骨頭壊死症」を患い、医師から告げられたのは「復帰は8割強、無理」という非情通告……
懸命にリハビリに励むも、復帰は叶わず、22歳の若さで球界を去ることに……

引退を決めた後輩に、山本由伸、宗佑磨がヒーローインタビューで投げ掛けた言葉とは? 
中嶋聡監督が取った意外な行動とは? そして西浦が引退試合で許された「たった1球の物語」とは――?

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