カーリング男子日本代表のSC軽井沢、PCCCで「一歩ずつ強くなった」 銅メダル獲得から見えたチーム力と個の成長

竹田聡一郎

準決勝惜敗から3位決定戦へ

デリバリーの際、ストーンをリリースしないといけない「ホグライン」を超えてもストーンに触れている行為。写真は適切なリリース。手前の競技運営スタッフが適切なリリースかどうか判断した 【筆者撮影】

 準決勝で敗戦を喫した栁澤は「(ホグラインオーバーは)受け入れられない部分、納得いかない部分があるけれど」と悔しさをにじませながらも「まだ夜に試合(3位決定戦)があるので切り替えていいゲームをしたい」と語った。

 その言葉どおり、山本のウェイトの乗ったショット、栁澤のフィニッシュが冴え、アメリカに勝ち切り銅メダルを獲得。今回、フィフスとして日本代表に帯同した臼井慎吾(KiT CURLING CLUB)は改めてこのチーム栁澤を「コミュニケーションがしっかり取れるチームなので、(ネガティブなことがあった後も)崩れない強さがある」と評したように、堪える負けの直後の勝利という強いチームの特徴を示した。

 優勝という最高の結果には届かなかったが、個人にフォーカスすれば小泉は参加8チーム中、リードとして2位の91.5%というショット率を残した。一方で「大事な準決勝で何もできなかった」と敗戦した韓国戦を悔やみ、さらに自身の成長を期待している。

 昨大会、開幕4連敗から“フィフス落ち”を味わった山本は当時を振り返る。

「チームとして何かを変えないといけない。変化をつけられるとすればメンバーの入れ替え。谷田さんを入れるとしたら自分のところしかない。無茶苦茶、悔しかったですけれど冷静に考えるとチームが勝つためには自分が出続けるわけにはいかないという思いもあった。自分で解決できないところがどうしようもなく悔しかったです」

 それからの1年間は臥薪嘗胆(がしんしょうたん)の日々だった。特にトップウェイトを磨き、日本選手権と世界選手権を経てこの17歳が新たに得た武器は攻守で欠かせない飛び道具になった。

「自分のショットがいかにゲームにいい影響を与えられるか」を意識しながら戦った今大会はセカンドとして最高の88.8%を記録したこともあり、冒頭で本人のコメントを紹介したが「去年よりいい景色」は見られたに違いない。「世界の中で普通に戦えるようになってきた」とは本人の談話だ。

 逆に大会前に22歳になったばかりの日本の若きエース・栁澤は、キーショットでのホグラインオーバーという苦い経験に見舞われた。この経験をフォースとして糧にすることが世界に割り込んでいくための試練、あるいは条件かもしれない。

 チーム最年長の山口は「去年は4位。今年は銅メダル。階段は一段一段上がるしかない。来週はまたグランドスラムがあります。ここに来る前のグランドスラムは予選を突破できなかったので、次は突破できるように頑張ってきます」と前を向きつつ、「リラックスできてストレスのない大会だった」と総括した。

 特に食事面で日本代表をサポートする全農から朝晩に届けられる現地レストランで調理したおにぎりや、国産の各種加工食品が、彼らのエネルギーの源になった。

「普段のカナダ遠征では外食と自炊が半々なんですが、今大会中の食事はすべて提供してもらったもので摂ることができた。外食や調理に時間をかけなくていいので、大会中に生活リズムができて安心感が生まれていつも通りプレーできました」と山口。やはり日本の米は最高です、とも言う。

「こっちでの食事はどうしてもカリフォルニア米などが多いのですが、改めて日本のお米の美味しさを再確認する毎日でした。特に夜、みんなで『かすみんカレー』(石川佳純(かすみん)カレー)を食べるのは楽しみでした」

「優勝を狙えるようなポテンシャルはある」

大会前の合同会見で「おにぎりをたくさん食べてエネルギーにしてファイヤーします」と山口はお約束の宣言をしていた 【筆者撮影】

 山口が口にしたグランドスラムはPCCCから中2日で、ノバスコシア州ピクトゥで開幕する。

「今大会(PCCC)は9試合を通してアイスは読めていて、気持ちいい投げができていた。自信になりました」と柳澤は大会後に胸を張った。

 続くグランドスラムでも今大会で勝てなかったカナダ代表のチーム・グシュー、スウェーデン代表として北京五輪で金メダルを獲得したチーム・エディンをはじめ、出場するのは格上のチームばかりだ。しかし、3位決定戦で勝利を収めたアメリカ代表のチーム・ドロプキンなどを含め、徐々に互角以上に戦えるチームも増えてきた。 

「優勝を狙えるようなポテンシャルはあると思っている」と柳澤は言い切った。山口は「暴れてきます!」と猛った。これまで通り、一歩ずつ、一段ずつ。彼らはどこまで登ることができるだろうか。

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著者プロフィール

1979年神奈川県出身。2004年にフリーランスのライターとなりサッカーを中心にスポーツ全般の取材と執筆を重ね、著書には『BBB ビーサン!! 15万円ぽっちワールドフットボール観戦旅』『日々是蹴球』(講談社)がある。カーリングは2010年バンクーバー五輪に挑む「チーム青森」をきっかけに、歴代の日本代表チームを追い、取材歴も10年を超えた。

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