宮崎学園に現れた、才気あふれる大型左腕 「名投手コーチ」の指揮官と目指す将来像は

加来慶祐

野球を深く理解しようとする意識付け

夏の甲子園では、大気の片りんを見せるも初戦で敗退。秋も宮崎日大に敗れてセンバツは絶望的となったが、プロでも活躍が見込める逸材であることは揺るがない 【写真は共同】

 甲子園の後は夏の疲労回復を主眼に調整を進め、ほぼ直行の状態で秋の大会に臨んだ河野。2回戦の登板も1イニングのみで、宮崎日大との3回戦に先発した。

 河野は尻上がりに調子を上げ、4回には3者連続三振を記録。力強さが増した感もある130キロ台後半の直球を連発するなど、5回を終えた時点で2安打、5奪三振で無失点の好投を見せていた。しかし2点のリードで迎えた6回、原因不明の制球難に陥る。一死後から中軸に3連続四球を与え満塁。このピンチは併殺で切り抜けたが、続く7回は先頭打者の投前ゴロを捕球し損ねて出塁を許すと、そこから3連続を含む4四球で逆転を許してしまった。

 結局、河野はこの回途中で一塁の守備に回り、宮崎学園は試合もそのまま2-5で敗れてしまう。これで夏春2季連続の甲子園出場は、絶望的となった。

「場面に応じた打者の攻め方、ペース配分が課題」と言う河野は、甲子園でも5四球と制球に苦しんだが、そのうちの4つはやはり6回以降に与えたものだ。後半に失点を重ねた点も共通している。

 秋の終わりと冬の訪れは、突如としてやってきた。うなだれる左腕に代わり、崎田監督が来季への展望を語った。

「ピッチャーで大事なことは、自分のフォームでしっかり強く腕を振り、思った通りにミットに投げ込めるか。ただ、河野は思い切りぶん投げてストライクが入らないことがまだ目に付きます。そこの修正はたしかに必要ですが、河野の場合は気力や体力面の問題だと思います。状況が悪くなると、今回の試合のようにまわりが見えなくなり、我を忘れてしまうことが少なくありません。冬の最優先課題は集中力を維持できるだけの体力、そしてコントロールを身に付けること。一方で、より深く野球を理解しようとする意識を芽生えさせていかなければいけないと思っているし、いろんな課題に対して本人と一緒になって取り組んでいこうと思います」

 1試合の負けで、何かが失われるわけではない。あの日、崎田監督が感じ取った「ただ、プロに行くだけではなく、プロで活躍できるだけの器」であることは揺るがない。一方で、指導者の考えと選手の意識に、まだまだギャップが存在するのも事実。これが埋まった時、河野はどれだけの大物投手に育っていることだろう。

 育成上手の指揮官と未完の大型左腕による挑戦は、来年夏、そして秋にひとつの答えが出る。

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著者プロフィール

1976年大分県竹田市生まれ。東京での出版社勤務で雑誌編集などを経験した後、フリーランスライターとして独立。2006年から故郷の大分県竹田市に在住し、九州・沖縄を主なフィールドに取材・執筆を続けているスポーツライター。高校野球やドラフト関連を中心とするアマチュア野球、プロ野球を主分野としており、甲子園大会やWBC日本代表や各年代の侍ジャパン、国体、インターハイなどの取材経験がある。2016年に自著「先駆ける者〜九州・沖縄の高校野球 次代を担う8人の指導者〜」(日刊スポーツ出版社)を出版した。

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