宮崎学園に現れた、才気あふれる大型左腕 「名投手コーチ」の指揮官と目指す将来像は

加来慶祐

甲子園の時点で189センチ・68キロと発表されていた身長体重が、秋には190センチ・72キロへと進化している 【写真は共同】

「未完の大型左腕」が世に出た夏

 「190センチの長身左腕」と聞くだけで、思わず“おっ!”と前のめりになってしまうものだが、それが2年生。しかも、創部21年目のチームを初の甲子園に導いた最速141キロの快腕となれば、これはもう黙っていられなくなる。

 宮崎学園・河野伸一朗。その長身からの投げ下ろす角度と、スライダー、カーブ、チェンジアップのキレが最大の武器だ。夏の宮崎大会は5試合中4試合(計42イニング)に投げ防御率1.29、奪三振37の好投で優勝の立役者となった。特に決勝戦は聖心ウルスラ学園を相手に、延長タイブレークまでもつれ込んだ中で、10回を完封する文句なしの投球だった。甲子園こそ2回戦で文星芸大付(栃木)を相手に164球を投げ、15安打9失点(自責6)とホロ苦い結果に終わったが、底の見えない将来性をアピールし、全国区の注目投手となった。

 河野の大きな転機が、崎田忠寛監督との出会いだろう。同地区の沖縄尚学・比嘉公也監督、明豊・川崎絢平監督と同学年でもある崎田監督は、長崎日大から國學院大へと進み投手としてプレー。高校時代は2年夏、3年春夏と3度甲子園に出場し、3年の1999年夏には日大三(西東京)を完封するなど活躍も見せている。

 2011年に宮崎学園の監督に就任して以降、夏は15年、20年(独自大会)に準優勝。春秋もたびたび8強に進出し、22年春にはついに県を初制覇した。そして、今夏の甲子園をついに勝ち取った。

 以前から、投手育成力には定評があり、國學院大、社会人のセガサミーを経てオリックスに入団した横山楓も指導。「正しい体の使い方を最優先に覚えさせ、決して無理はさせない」という理念のもと、次々に好投手を輩出している。近年では崎田監督の指導を仰ごうと、県外からも選手が宮崎学園の門を叩くようになった。そんな“名投手育成名人”の存在が、河野が宮崎学園に進んだ理由のひとつでもある。

監督評は「プロで活躍できる素材」、しかし本人の意識とのギャップも

 崎田監督は河野を初めて目の当たりにした瞬間「いずれはプロで活躍できる素材だ」と、その天性に惚れ込んだ。身長180センチ台後半のサイズと、角度のある真っすぐ。そして、変化球のキレーー。そのすべてが、他の選手には真似ることのできない第一級だった。

「これまでの教え子と同じように、1年生の頃は野放しにして様子を見ていました。ただ、気持ちの中でスイッチが入らない時には、こちらが雷を落としながら方向修正を試みようとするのですが、彼の中では『大丈夫ですよ。できますよ』という部分も強かった。ところが、そこはまだ経験の少ない高校生です。彼の言う“大丈夫”と現実との間には、どうしても隔たりがあります」

 数々の好投手を指導してきた崎田監督だが、過去に育てた投手は横山をはじめ、2018年に宮崎県選抜の一員として高校日本代表をキリキリ舞いさせた源隆馬など、多くが右投手だった。宮崎学園は左腕エース自体が珍しく、しかもドラフト候補になり得そうな大型左腕の指導は、崎田監督にとってもほぼ初と言っていいケースだ。

「左投手は独特と言われますが、たしかにそうかもしれませんね。ただ、私は左の方が器用な子が多いのかなと感じているんです。河野はあのサイズで変化球もいいし、バッティングもいい。走り方もいい。何をやらせても体のバランス感覚がいい。左の大きな子はどこか機敏さに欠けるイメージが強かったから、私もちょっと驚いています」

 河野は新チームから4番を打つようになった。勝負強く、長打もある。また、外野の間を割れば野手顔負けのベースランニングで先の塁を狙い、陥れるだけの脚力もある。しかし、崎田監督の言うような万能型だからこその悩みもあると崎田監督は言う。

「彼は本当にバッティングが好きなので、普段の練習でもバッティング練習が多く、投手に必要な基礎メニューは後回しにしてしまうんです。私たちが求めている部分と彼がやっていることには、まだまだ開きがありますね」

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著者プロフィール

1976年大分県竹田市生まれ。東京での出版社勤務で雑誌編集などを経験した後、フリーランスライターとして独立。2006年から故郷の大分県竹田市に在住し、九州・沖縄を主なフィールドに取材・執筆を続けているスポーツライター。高校野球やドラフト関連を中心とするアマチュア野球、プロ野球を主分野としており、甲子園大会やWBC日本代表や各年代の侍ジャパン、国体、インターハイなどの取材経験がある。2016年に自著「先駆ける者〜九州・沖縄の高校野球 次代を担う8人の指導者〜」(日刊スポーツ出版社)を出版した。

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