福澤達哉が“史上最強”男子の強さを解説 「つなぐバレー」で目指す五輪出場権獲得

市川忍

石川、関田、高橋藍の3人が日本のキーマン

セッターの関田はチーム戦術におけるキーマン。攻撃の選択はすべて関田が判断しているといっても過言ではない 【Photo by Foto Olimpik/NurPhoto via Getty Images】

 OQTは五輪出場権獲得のためにも、すべての試合に勝ちに行かなければならない大会です。短期決戦において、早い段階で流れをつかんだチームが有利となります。勝つにしても、どういう内容で、どういうムードで戦えるか。日本開催ということで1勝するごとに会場のボルテージは否が応でも上がります。この外的要因を味方につけて、日本には勢いをつかんでほしいですね。

 そういう意味では、序盤の試合で日本の得意とするフェイクセットを見せるのも、会場を盛り上げ、勢いに乗り、流れをこちらに引き寄せる1つの手段ではないかなと私は考えています。とにかく自分たちのパフォーマンスを惜しみなく出していくことが大事で、かつ五輪の切符がかかるであろう最後の3戦でさらにギアを上げることが求められます。

 VNLで銅メダルを獲得したことで、日本は世界の強豪国から警戒され、向かってこられる立場になりました。そのため、日本にはそれを上回る戦いが求められます。たとえ世界ランキングで日本より下位の国であっても、相手は失うものは何もない状態で向かってきますので、そう簡単に勝てるとは思わないほうがいいでしょう。

 OQTではすべての選手の役割が重要ですが、その中でも私が注目する選手を紹介します。まずは石川祐希選手、そしてセッターの関田誠大選手、石川選手の対角に入る髙橋藍選手の3名です。現在の日本の戦い方において、中心にいるのはこの3名だと考えます。

 石川選手はすべてのプレーが世界トップレベルで、なおかつ勝ち方を知っている選手です。ゲームの流れを読む力に長け、勝敗を分けるポイントでは必ず石川選手が絡んできます。たとえ劣勢であろうと、1つのプレーで一気に流れを変えることができる力を持っています。プレッシャーがかかる試合が続くほど、石川選手の力が重要になってくるでしょう。

「この選手ならなんとかしてくれる」という期待感はチームにとってはプラスですし、同時に相手にとっては脅威です。VNLでは大会を通じてのベスト・アウトサイドヒッターにも選ばれましたが、こうした勝負強さやリーダーシップなども含めると、私は世界のトップ5に入る選手だと思っています。

 次に関田選手ですが、私は戦術におけるキーマンだと考えています。どうしても最後に得点を取った人が注目されがちですが、誰が攻撃するかを選択するのはすべて関田選手です。それこそもっともプレッシャーがかかるポジションだと思います。関田選手は年齢を重ね、経験を積めば積むほどいい意味での狡猾さが増していますね。データをもとに確実に行くべきか、それとも自分の勝負勘を信じるか。または大胆に仕掛けるべきかなど、さまざまな選択肢の中から自分の経験を踏まえて、最善の策を選んでいます。

 関田選手の長所を最も生かせるのがリバウンドを取ったとき、ディグが上がったときなどのラリー中です。相手がバタバタしているときに、世界で一番早い攻撃を仕掛けられるよう、関田選手が全体をコントロールしています。また、インサイドワークにも定評がありますので、序盤にクイックを使ったから終盤にパイプ攻撃が効いてくるなど、関田選手がどう布石を敷いているかに着目すると、関田選手のゲームコントロールの素晴らしさが分かるかもしれません。
 
 最後に髙橋藍選手は攻守におけるキープレーヤーですね。もともとディフェンス力が高く、東京五輪までは守備で期待されていた選手です。しかし、最近はサーブ力とスパイクの幅が広がり、大きく成長しました。以前まで、ハイセットは石川選手か西田選手が打っていましたが、髙橋藍選手の成長によって選択肢が広がりました。

 サーブについては、西田選手や石川選手ほどのスピードはないのですが、緩急をつけることが可能で、すごく器用です。同時に、確実にサーブのターゲットを狙えるスキルの高さも兼ね備えていますので、彼の成長があったからこそ、日本代表はここまで選手層に厚みが増したのだと思います。

VNLからさらにアップデートしたチーム力で五輪切符を

高橋藍が攻守のキープレーヤーに成長したことで、チーム力が高まった日本。VNLからさらなる成長を見せられるのか 【Photo by Andrzej Iwanczuk/NurPhoto via Getty Images】

 今大会の鍵となる試合は最後の3連戦の初戦、10月6日のセルビア戦だと私は見ています。セルビアは現在、世界ランキング9位と日本より下ではありますが(日本は5位)、もともと力がある強いチームです。この2年間、世代交代を進めており、徐々にベテランと若手が融合しつつあるところも脅威でしょう。

「この試合を勝てば五輪が決まる」という日はおのずと選手のギアは上がるものです。だからこそ、その1つ前の、流れをたぐり寄せるための一戦となるであろうセルビア戦が山場になります。

 VNLで準決勝まで勝ち進んだことで、ライバル国に日本選手のデータが十分に取られてしまったことは、もちろん不安材料ではあります。そしてもっとも怖いのは「VNLの時にうまくいったから」と同じ戦術をそのまま繰り返すことです。VNLからアップデートし、さらに相手を上回ることができる策を持たなければ勝てません。そして、目の前の相手に対してさらに上を行く力が、常々石川選手が言っている「個の力」だと私は思います。個々の力で打開して、チームでつないで、五輪への切符を手にしてほしいです。

福澤達哉(ふくざわたつや)

【パナソニックパンサーズ提供】

1986年7月1日生まれ。京都府京都市出身。2008年に北京五輪に出場。長年バレーボール日本代表の主力として活躍する。2009年にパナソニック パンサーズに入団し、国内タイトル3冠を3度達成するなどチームの優勝に貢献。ブラジルやフランスリーグでプレーするなど海外でも活躍した。2021年に現役引退。 現在はパナソニックで社員として働きながら、バレーボール解説やパンサーズアンバサダーなど幅広く活動している。

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著者プロフィール

フリーランスライター/「Number」(文藝春秋)、「Sportiva」(集英社)などで執筆。プロ野球、男子バレーボールを中心に活動中。

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