ライセンスが“特例”で認められたクリアソン新宿 異色のクラブはJリーグ不毛地帯の「東京23区内」にどう向き合うのか?

大島和人

クリアソンが負う責任

東京商工会議所新宿支部の高野吉太郎会長(右)と握手する丸山代表 【写真は共同】

 クリアソンは2009年に東京都4部リーグへ加盟し、13年に株式会社化して以後は「サッカーを通じて地域を豊かにする」「社会課題を解決する」といったテーマへ愚直に取り組んでいた。その結果として行政、地域から受け入れられる存在になっている。

 彼らは人口34万人のうちの4.5万人が外国人という新宿で、グローバルカップと称する「ミニワールドカップ」を開催している。子供、高齢者を対象にした地域活動も活発に続けている。今回の会見には区長や地元の名士が参加していた。それは彼らの永続性、可能性を担保している大切なポイントだ。

 水面下ではJリーグとのやり取りもしていたはずだ。「外堀」をじっくり埋めて、今回の特例を引き出した。

 ただ、まだ見切り発車だ。しっかりとホームを固定できない状況では集客も難しい。クリアソンがJ2、J1と登っていけば今回の判定は後に英断として評価されるだろう。しかし彼らが期待に応えられなければ、「不要な例外的措置だった」という振り返りになるはずだ。

 丸山代表もこう口にしていた。

「今回もスタジアム問題を綺麗にクリアできた状態ではありません。嬉しい気持ちは半分です。今までJリーグのライセンスを、スタジアムの問題でなかなか突破できなかった地方のクラブや、色々な方々の思いも背負った中で、我々この23区エリアからチャレンジをさせていただけている。だから半分はそういった方々にどう貢献していくのかという責任を感じています」

今回の判定が「良き前例」となるか?

 都心部にJクラブが誕生すれば、メリットが当然ある。今季はJ1、J2の様々なクラブが国立開催にチャレンジしたが、いずれも好調な集客を見せた。今までサッカーと接点がなかった人を呼び込むための入口として、アクセスのいい国立は最適な施設だ。

 丸山代表は国立のホーム化についてこう語る。

「目先で言うと、新宿には国立競技場という立派なスタジアムがあります。ここを1試合でも多く使わせたいと思っていただけるクラブになれるか――。その努力は、我々が一番するべきものです。国立競技場の稼働率を高める一助を担えたら、そんなに嬉しいことはありません。直ちに新しいスタジアムを作る選択より、既存の23区にあるスタジアムを活性化していくところが、ファーストチョイスだと考えています」

 30年前のJリーグはクラブが太平洋ベルト地帯に集中し、オーナー企業は東京に集中していた。ただし2023年の今になると逆に「東京が弱い」という構造的な問題が浮上している。公平性について異論が出ることは置くとしても、サッカー界の発展という意味で「23区特例」は妥当な選択だ。

 一方で彼はこう気を引き締める。

「我々が(J3に)上がるときには、違うスタジアムのお世話になりながら、色んな方に負担をかける形になります。これは決して美談でなくて、本当に一歩一歩積み上げている中で、まだ足りない部分があるとはいえ、皆さんに認めていただいて、こういう一歩を踏み出せました。まだ道半ばですけど、大きな箱を満杯にできるクラブになるか、愛されるクラブになれるか、引き続き僕らのチャレンジになっていきます」

 今回の特例が正しいのか、過ちなのか――。それはクリアソンが今後、どのような価値を社会とサッカー界に対して示せるかで決まる。39歳となった都心クラブのトップにも、その覚悟はある。

「1回とはいえ(J3ライセンスを)認めていただけたことは、大きな前例になっていくでしょう。この前例を『やってよかった』と思っていただけるような振る舞い、取り組みをし続けることだけを考えています」

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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