ライセンスが“特例”で認められたクリアソン新宿 異色のクラブはJリーグ不毛地帯の「東京23区内」にどう向き合うのか?

大島和人

26日17時過ぎ、JリーグからJ3クラブライセンス交付の連絡が入った 【撮影:大島和人】

 Jリーグクラブライセンスの判定結果が、9月26日に発表された。ファン・サポーターにとって大きなサプライズとなったリリースが、「クリアソン新宿」へのJ3ライセンス交付だ。

 クリアソンは2023年が、J1から数えて4部に相当するJFL(日本フットボールリーグ)に昇格して2シーズン目。今季のJFLは前節終了時点で2位から12位まで勝ち点6差という超混戦状態だが、現在4位につけている。ただ昨年度はJ3クラブライセンスを申請しつつ、不交付の判定を受けていた。

 29選手中22選手が株式会社クリアソンの社員選手で、「セカンドキャリアのいいスタートを切れる」ところが選手獲得の売りになっている異色のクラブだ。サッカー事業の売上は約4.5億円で、既にJ3でも問題なくやっていける経営規模に到達している。コロナ禍の1期を除くと黒字決算を続けていて、無理な投資をしているわけでもない。2022年10月9日の鈴鹿ポイントゲッターズ戦は、JFL史上最多となる16218人の集客も達成していた。

 一方で「東京、新宿にホームスタジアムを確保する」という究極の難題を抱えていた。今回は特例と言い得る形で、J3ライセンスの交付を受けた。残り7試合の浮上と、2位だった場合はJ3最下位クラブとの入れ替え突破が必要だが、J3入りが「見える」状況に来ている。

「23区初」のJクラブ誕生なるか?

昨シーズンは国立に1万6千人以上の観客を集めた試合も 【写真は共同】

 クリアソンは26日、伊勢丹新宿店の屋上でJ3ライセンス交付に関する記者会見とイベントを行った。丸山和大代表はJリーグからの電話を受けた直後に、こう語っている。

「東京23区内のクラブとしては、初めての申請承認となりました。スタジアムを含めて足りないところも沢山ある中で『新しい風を吹かしてほしい』という期待も込めて、チャレンジをさせていただく――。そういった記念すべき1日になったのかなと思っております」

 東京は日本の首都で、ビジネス・文化の中心でもある豊かな都市だ。しかしスポーツの『箱物』に関しては絶望的なほどに貧しい。そこで活動をする、上を目指すチームにとってかなりタフな環境だ。

 大阪府ならばパナソニックスタジアム吹田、ヨドコウ桜スタジアムとサッカー場が2つある。さらにJ3のFC大阪は花園ラグビー場をホームとして利用できている。対する東京は現在Jクラブ3つ(FC東京、東京ヴェルディ、FC町田ゼルビア)が活動しているものの、いずれも陸上との兼用施設をホームにしている。しかもスタジアムは調布、町田といった23区外だ。

 現時点で、東京のサッカーにとって唯一の希望は葛飾区のプロジェクトだ。区は新小岩駅周辺の用地を取得し、南葛SC(関東リーグ1部)のホームとなるスタジアムの建設計画を進めている。ただし「都心6区」の一角である新宿区は用地取得や新設のハードルが遥かに高い。

スタジアム不足の23区内

 プロ野球は12球団のうち2球団が23区内で試合をしている。イングランドのプレミアリーグも、20チーム中6チームはロンドン市内のクラブだ。Jリーグは60クラブにまで拡大したが、23区内にホームスタジアムを置いているクラブが一つもない。

 Jリーグの開催実績がある23区内のスタジアムは国立競技場、味の素フィールド西が丘、駒沢オリンピック公園総合運動場、夢の島競技場の4つ。ただしこういった施設はクリアソン新宿だけでなく女子サッカーのWEリーグと育成年代、そしてラグビーのリーグワンが奪い合っている。

 リーグワンのDIVISION 1(1部)は東京都内に4チームが集中しているものの、スタジアムの固定化は十分にできていない。スタジアムの需要に対して供給が圧倒的に乏しく、「1チーム1会場」の固定が難しい――。それが東京の土地柄だ。

 丸山代表もこう語っていた。

「23区はスタジアム問題が大きくて、『23区にサッカークラブ作っても、Jリーグライセンスのところでつまずく』『スタジアム問題はそんなに簡単じゃない』というのは、色んなサッカー界の方にずっと言われ続けてきた課題でした」

 来賓としてスピーチした新宿区の吉住健一区長はこう述べていた。

「こんなに早くJ3のライセンスを取得できるとは、想像だにしていませんでした。ここに至るまで大変な困難もあったと思います。(中略)今後も地元の自治体、地元の仲間として、クリアソン新宿さんが大きく羽ばたいていけるように、その裾野のところ私達がしっかりお支えしていきたいと思います」

新宿区の吉住健一区長も会見に参加していた 【撮影:大島和人】

「東京23区の特性」が承認の理由に

 クラブライセンスの規定や運用を熟知する人ほど、今回の決定には驚いたはずだ。今回、クリアソンは味の素フィールド西が丘と国立を中心に、J3ライセンスを満たすスタジアムで8割以上のホームゲームを開催するメドをつけた。国立開催も1試合から複数試合に増える。とはいえ、ホームスタジアムを1カ所に固定しているわけではない。今回のJ3ライセンス承認は、間違いなく「異例」で、ある種の飛躍を伴う決定だった。

 Jリーグは26日のリリースでこう記している。

「なお、クリアソン新宿は施設基準に課題があるものの、東京23区というホームタウンの特性に鑑みJ3ライセンスの交付を決定しました」

 丸山が29歳で伊藤忠商事を退職し、クリアソンが株式会社化したのは2013年4月。その 5カ月後に東京オリンピック・パラリンピックの招致が決まり、新宿区内で国立競技場の新築も成された。ただし国立競技場は使用料が高く、JFLクラブにとっては大きすぎる箱だ。

 23区はサッカークラブが育たない土地だった。新興クラブがいきなり国立をホームにする、もしくはスタジアムの新設するのは現実的でない。23区内でJクラブが成り立つとすれば、それは基本的に移転のみ。しかしそれはサポーターの大きな反発を生むアクションだ。そのような事情を、Jリーグは「特別な事情」として勘案したのだろう。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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