ラグビーW杯で判定が物議…基準は? 「選手&レフリー」の近藤雅喜が解説

スポーツナビ

イングランドのFLトム・カリーはアルゼンチン戦で退場処分を受け、2試合の出場停止となった 【写真:ロイター/アフロ】

 ラグビーワールドカップ(W杯)フランス大会は9日に開幕し、熱戦が続いている。大会前の強化試合では、日本代表のリーチマイケルらが危険なタックルで出場停止処分を受けたが、大会が始まってからは頭部同士の激突プレーで処分が分かれ、海外メディアがその判断を疑問視するなど、物議をかもしている。

 W杯におけるここまでの判定に傾向はあるのか? 危険なプレーの判断のポイントはどこにあるのか? 現役選手とレフリーの二刀流に挑んでいる近藤雅喜(三重ホンダヒート)に話を聞いた。(取材日:9月13日)

今大会は「安全かつ、激しいラグビー」

――W杯が始まってここまで8試合が行われました。今大会における判定の傾向などはありますか?

 このフランス大会は「安全に行われるように」という点に比重が置かれていると感じます。もちろん、W杯から急にその形になった……というわけではなく、事前のテストマッチ(国際試合)から傾向は出ていて、「安全かつ、激しいラグビー」のためにコントロールしている印象です。
 私も大会前のレフリングを見ていて、こうなるだろうなと予測していた形になっています。

――プレーごとにTMO(ビデオ判定)が行われて試合時間が長くなることが懸念されていましたが、実際にはTMOの回数が少なく、スムーズに進んでいるように見えます。

 これについてはマッチオフィシャル全員の努力があると思います。レフリーだけではなく、2人のアシスタントレフリー、テレビマッチオフィシャルの全員の協力によって、スムーズに運営されています。

 また、このW杯から新しく導入された「バンカーシステム(選手が一時退場となった間にレッドカードに該当するか映像で判定する仕組み)」が効果的です。
 危険なプレーがあった際に、これまではどういったアクションがあったのかをグラウンドにいるレフリーも含めてビデオで確認してから判定に移っていましたが、「バンカーシステム」の導入でまずはイエローカードを出して、専任の審判員が映像で検証し、グラウンドでは次のプレーに進めるようになったので、試合時間が伸び過ぎないようになっていると思います。

“危険なプレー”の判断は?

日本とチリの対戦でも激しいタックルの応酬となった 【写真:ロイター/アフロ】

――大会前の強化試合ではハイタックルが注目を集めました。W杯では今のところ肩を相手の頭部に直接当てるようなタックルが少ないように見えます。

 コーチからの指導がかなり入っていると思いますし、選手自身もリスクマネジメントとして、自分が退場にならないように気をつけていると思われます。確かにここまでの試合を終えた時点では、そうしたタックルの数は少ないです。

 ただ、このあと試合を重ねてもっとボールが動いたり、負ければ終わりという状況になったり、選手に疲れが出たりすると状況は変わっていくかもしれません。

――一方で、頭部同士の激突プレーで議論も出ています。イングランドのトム・カリーはアルゼンチン戦でレッドカードで2試合の出場停止、チリのマルティン・シグレンは日本戦でイエローカード。頭部がぶつかったように見えてもカードが出ないシーンもありました。それぞれに違いがあったのでしょうか?

 まさに、多くの専門家の方々の意見が出ているところですね。
 まずカリー選手の場合は、コンテスト(相手と競り合う)キックのキャッチのタイミングで頭頚部への衝突でした。ハイスピード、ハイインパクトの状態で頭頚部同士がぶつかったので、完全にレッドカードの対象になる危険度の高いプレーでした。

 チリのシグレン選手が日本戦で同じようなシーンがありましたが、カリー選手のシチュエーションに比べると衝撃度に差がありました。そこまでのスピード、力の加わり方ではなかったのでイエローカードだったということです。

 すべての頭頚部へのコンタクトがレッドカードになるわけではなく、両者がどのような状態でその空間にいたか、という点も判断材料になります。

――チリ戦では日本代表の具智元がパスをした後に危険なタックルを受けました。

 パスを出した後に起こったプレーで、難しいところだと思います。いわゆる「ダーティなプレー」に見えますが、レフリーは「レッドカード相当ではない」と判断した、ということですね。

 たとえば、ラック(地面にボールがある状態での争奪戦)からボールを出そうとしている際に、そのラックを守っている選手の膝に対してぶつかっていくのはレッドカードになるケースが多いです。他のプレーを選択できるだけの時間と空間があるのに、相手の死角から膝下に入るのは危険なので。

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