野球ヲタ、投手コーチになる。 元プロ監督と元生物部学生コーチの京大野球部革命

京大野球部を変えたアナリストの素性 高校時代に勉強から逃避して没頭したもの 

菊地高弘

三原大和は灘高校に進学するも学業が低迷、生物研究部で「ナポレオン」と「カエルの解剖」に勤しんだ 【写真:菊地高弘】

 最下位が定位置の京大野球部に2人の革命児が現れた。1人は元ソフトバンクホークス投手の鉄道マン・近田怜王。もう1人は灘高校生物研究部出身の野球ヲタ・三原大知。さらには、医学部からプロ入りする規格外の男、公認会計士の資格を持つクセスゴバットマン、捕手とアンダースロー投手の二刀流など……超個性的メンバーが「京大旋風」を巻き起こす!

 甲子園スターも野球推薦もゼロの難関大野球部が贈る青春奮闘記。菊地高弘著『野球ヲタ、投手コーチになる。 元プロ監督と元生物部学生コーチの京大野球部革命』から、一部抜粋して公開します。

燃え尽きたエリート

 三原大知は飼育ケージのエサ皿にニンジンなどの野菜を入れた。ケージのなかには、大学2回生から飼い始めたリクガメが入っている。

 三原は中学、高校と生物研究部に入っていたように、もともと生き物が好きだった。なかでもカメには思い入れがあった。

 リクガメの何がいいかと問われれば、「何を考えているのかわからないから、逆に惹かれるのかも」と三原は答える。カメだけでなく、トカゲやカメレオンなどの爬虫類全般が好きだ。

「哺乳類にはないミステリアスさがある」というのが、三原のお気に入りポイント。また、カメと言えば童話『ウサギとカメ』にあるように鈍重なイメージがつきまとうが、実はリクガメは機敏に動ける。そのギャップも三原には魅力的に映っていた。

 三原が飼っているリクガメに名前はない。カメはイヌやネコのように、人間から名前を呼ばれて反応する生物ではない。だが、名前をつける意味を見出いだせなかったというよりは、とくに何も考えずに「つけるタイミングを逸した」というのが正直なところだった。

 なぜリクガメを飼い始めたかといえば、時間を持て余していたからだ。

 2020年に新型コロナウイルス感染症が世界的大流行を見せ、新学期に入ってから野球部の活動はストップしていた。選手たちは個人でできる練習を続けていたが、アナリストの三原がやれることはなかった。リクガメの存在は、三原の孤独をやわらげてくれた。

 三原は1999年6月9日に、大阪府吹田市に一人っ子として生まれた。両親はともに関西大卒で、父の伸一郎は家具メーカーに勤めるサラリーマンである。父方の祖父はかつて家具屋を経営しており、ものづくりに縁のある家系だった。だが、三原本人にものづくりへの興味はなかった。

 幼稚園児の頃に小学校受験をし、国立の名門・大阪教育大学附属池田小学校に合格。三原のスポーツ経験といえば、小学生時に楽しんだサッカーくらいのものだった。

 小学4年時に、三原は「灘中を受験する」と宣言する。近畿地方を中心に展開される学習塾・馬渕教室に通っていた三原は、塾講師から「灘に行け」と勧められていた。仲のいいクラスメートと3人で受けた模試は、3人で全国1~3位の順位を独占。三原は2位だった。

「勉強する習慣があって、成績はよかったんです。仲のいい他の2人が灘志望だったので、僕も一緒に受験したい思いが強くて灘を志望しました。2人に負けたくない思いもあったのかもしれません」

 両親は「池田小にいれば、高校まで内部進学できるのだから」と反対した。だが、三原は自分の意志を曲げなかった。全国トップクラス、西日本最難関と言われる灘に挑戦することに意味があると思えた。とくに得意だったのは算数である。三原は灘中の入試を見事に突破する。

 だが、三原は灘中に合格した時点で目標を失っていた。「何のために勉強してるのか?」と疑問を抱き、習慣化されていた勉強をしなくなった。小学生時に仲のよかった2人が、灘中に入れなかったことも少なからず影響したのかもしれない。

 下位の成績に低迷する三原は、両親から𠮟責を受けっぱなしだった。三原は両親が灘中の受験を反対した理由が理解できたような気がした。

「よくも悪くも現実的で、たいした人間じゃないと親もわかっていたから、灘に行くのを反対したんだろうと思うんです。いい大学に入りたい思いはありましたけど、灘に入った時点で燃え尽きてしまって。『成績を上げたい』という意欲がなくなりました」

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著者プロフィール

1982年生まれ、東京都育ち。野球専門誌『野球太郎』編集部員を経て、フリーの編集兼ライターに。元高校球児で、「野球部研究家」を自称。著書『野球部あるある』シリーズが好評発売中。アニメ『野球部あるある』(北陸朝日放送)もYouTubeで公開中。2018年春、『巨人ファンはどこへ行ったのか?』(イースト・プレス)を上梓。

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