U-18W杯 経験者は語る&現地レポート

WBCで注目されたチェコ野球 U-18代表のスマートな振る舞いに今後の躍進を期待

駒田英

今大会で大きな自信をつかんだ選手たち

アルベルト・プラジャークは台湾戦で2回無失点3奪三振と好投。「将来はアメリカでプレーしたい」と夢を語った 【写真:駒田英】

 チェコは今大会、グループA(台中市)に入った。チェコのオープニングラウンドは、1日のメキシコ戦がサスペンデッドとなり、さらに予備日の試合も延期されたほか、3日の台湾戦が自治体による台風被害防止対策により無観客となるなど雨に翻弄されたが、チェコの選手たちはこのU-18の舞台でも、見るものの心を打つ戦いぶりをみせてくれた。

 まず、「初戦」となった2日のプエルトリコ戦。2-6で逆転負けを喫したものの、「エクストラリーガ」でも登板経験を持つヴィクトル・ベラネックが3回までノーヒットピッチング。打線も4回表に1点先制するなど、あわやという健闘。3日の韓国戦は1-14と一方的な展開となったが、9回2死、2ストライクからのタイムリーで1点を返す意地をみせた。

 さらに4日の台湾戦は2回無失点3奪三振のアルベルト・プラジャークなど、投手陣が奮闘。守備でも好プレーが生まれた。さらに0-4で迎えた最終回、無死満塁から押し出しを選び、台湾の抑えのエースを引きずり出す粘りを披露した。

 そして、ハイライトは5日のオーストラリア戦だ。チェコは初回、オーストラリア投手陣の乱調もあり満塁の好機をつくると、押し出しとタイムリーで2点先制。3回に2点、4回にも1点追加しリードを広げる。投げては先発のマイケル・セナイが、140キロ台の直球にスライダーを交え、5回を2安打8奪三振、2失点の好投。6回からはマティアシュ・トルチカが2イニングを無失点に抑え、5-2で逃げ切った。

 チェコのU-18ワールドカップでの勝利は、前回出場した2015年大会の南アフリカ戦以来。ちなみに同大会ではオーストラリアに0-10(8回コールド)で大敗した。前身の大会含め、これまでU-18世代の国際大会で、チェコは勝ち星自体ほとんどあげられておらず、準優勝経験もあるオーストラリアを下したことは、大きな勝利といえるだろう。

 先発したセナイはアメリカ生まれ、アメリカ育ちで、現在フロリダ州の高校に通う選手。チェフ監督によると、母方の祖父母がチェコ人で、ルーツに対する思い入れが深く、今回、代表入りしたいと自ら電話をかけてきたという。セナイ自身も「WBCでチェコ代表の試合を見て、自分も将来トップチームでプレーしたいと思うようになった」と語った。

 チェコはさらに、7日の順位決定ラウンド初戦、昨年のヨーロッパ選手権優勝のスペインに4-0で完封勝利。大会2勝目をあげた。選手たちの表情には自信がみなぎっていた。

プレー以外でも紳士的に振る舞う

試合結果にかかわらず、選手たちは常に相手をリスペクトしながら全力でプレーしている 【写真:駒田英】

 筆者は、2日からオープニングラウンド4試合に密着した。クラブチームで、日頃から大人たちの振る舞いを見ているからだろうか、チェコはU-18代表もWBCのトップチーム同様、魅力的なチームだった。

 特に印象的だったのは大敗した韓国戦の後とオーストラリアを下した後の選手たちの姿だ。選手たちは大敗後も胸を張り、整列後、韓国側に歩み寄って握手をしながら健闘を称えていた。一方で、オーストラリアに勝利したあとも、喜びを爆発させることはなく、スマートに引き上げていった。

 このことについてチェフ監督に問うと、「われわれは野球をプレーする人たち皆をリスペクトしています。試合結果は関係なくベストを尽くして戦った試合のあと、相手に敬意を示すことは自然なことです。相手の前で喜び過ぎないということも同じです。自分が逆の立場になったらつらいでしょう。当然、選手たちはダグアウトでは大喜びしています」と笑った。
 
 おしまいに、日本のファンにとって、チェコ野球をより身近に感じられるようになるかもしれない情報をご紹介しよう。筆者は以前からU-12やU-15の世代別代表に、「マティアス・タケダ」という選手がいることが気になっていた。日本と縁があるとみられるタケダ選手についてチェフ監督に尋ねると、「今回は2005年、2006年生まれの選手を選んだため2007年生まれの彼は補欠にまわったが、ポテンシャルの高い選手なので今後の活躍に期待している。将来、世代別大会やトップチームに入る可能性は十分にある」と教えてくれた。

 取材を通じ、チェコ球界にとって今年のWBCがエポックメイキングな大会であったこと、開催地の日本に対しても思い入れを持ってくれていることを感じた。短い期間の密着であったが、今後、さらに関心を持ち、応援していきたいと思わせる魅力的なチームであった。

(企画構成:スリーライト)

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著者プロフィール

台湾野球好きが高じて2006年に来台。語学学校でまず中国語を学び、その後、大学院で翻訳を専攻。現在、政府系国際放送局で日本語放送のパーソナリティーを務め、スポーツ番組も担当。『台湾プロ野球<CPBL>観戦ガイド 』(ストライク・ゾーン)に執筆者の一人として参加した。

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