フィンランドから歴史的勝利を挙げたバスケ日本代表 「22歳コンビ」が18点差逆転の立役者になった理由

大島和人

富永(左)と河村(右)の22歳コンビが日本を逆転勝利に導いた 【(C)FIBA】

 アメリカ発祥のスポーツではよく、モメンタムという用語が使われる。日本語に置き換えるなら「流れ」「勢い」「空気」といった意味だ。当然ながらそこには観客の熱気も作用する。8月27日の沖縄アリーナで、日本は勝負どころのモメンタムを完全に支配した。

 FIBAバスケットボール・ワールドカップの第2戦で日本はフィンランドを98-88で下し、世界大会では17年ぶりとなる勝利を挙げた。

 日本は第1戦で、ドイツに63-81と敗れている。内容以上に話題となったのが「空席問題」だ。晴れの自国開催で、チケットが完売していたにも関わらず、ベンチ正面の特等席は空席だらけ。試合後の会見ではトム・ホーバスヘッドコーチが憤激のコメントを残し、X(旧ツイッター)では相次いで選手が同様の発信をした。

 そうして生まれた「コート外のモメンタム」が国際バスケットボール連盟(FIBA)や大会の組織委員会を動かした。27日の午前には来場が見込めない法人向けチケットの再販売がスタート。それが奏功してフィンランド戦は前々日より観客数が千人近く増えていた。その多くは地元・沖縄のバスケ好き、琉球ゴールデンキングスのブースターだったのだろう。ドイツ戦とは比較にならない良い空気が、日本代表を後押ししていた。

悪い流れを断ち切った富永啓生

 フィンランドは世界ランキング24位で、昨夏のEuroBasket 2022(欧州選手権)は7位に入っている。ユタ・ジャズ所属のNBAオールスター選手、ラウリ・マルッカネンを擁する好チームだ。

 第1クォーター(Q)の日本の守備がハマり、攻撃ではベンチスタートの比江島慎が9点の大活躍を見せた。ただ第1Qを22-15とリードして終えた日本は、そこからモメンタムを失った。

 シューターのサス・サリンは封じていたものの、マルッカネンや他のシューターが面白いようにシュートを沈めはじめる。リバウンドからの速攻も出る展開で、第2Qは大量31失点。前半のフィンランドは3ポイントシュート成功率が55.5%という驚異的な高さで、日本は36-46の10点ビハインドで前半を折り返すことになった。

 第3Qも悪い流れは続き、最大18点差までリードを広げられた。そこでまず相手のモメンタムを断ち切ったのが富永啓生。2001年2月生まれの22歳で、189センチのシューターだ。

 ホーバスHCは比江島と富永の活躍、起用についてこう振り返っていた。

「(比江島は)すごかったね。彼が前半にあのプレーをしていなかったら、(日本は)負けたかなと思います。後半は18点差になってから、DFよりスコアリングをやったほうがいいかなと思って富永を入れました。富永が熱くなっていたから、最後まで富永にしました。富永と比江島、本当にいい仕事をしました」

富永の連続スリーが相手の流れを断ち切った 【(C)FIBA】

攻撃のバランスが整った理由

 第3Q残り2分33秒、残り1分48秒に富永が連続シュートを決めたこともあり、日本は63-73まで追い上げて第4Qを迎える。フィンランドのDFは否応なく「富永」「外」を意識し始めていた。これが他の選手を引き立たせる二次効果を生んでいく。

 ホーバスHCはこう分析していた。

「いつも言うけど、オフェンスバランスが必要です。オフェンスバランスは3ポイントシュートと、ペイントアタックと、フリースロー。今日のオフェンスバランスは最高です。(日本はフィンランド戦で)フリースローを34本打ちました。今まで3ポイントが全く入らなかったから、ウチはあまりドライブができなくて、ペイント(エリア)にも入れなくなっていた。でも富永が熱くなって、河村も熱くなって、そこからペイントが空いた。ジョシュ(・ホーキンソン)のスリップ(スクリーンに行くと見せかけて、ゴール下に走り込むプレー)とか色々できた」

 河村勇輝は自身のプレーについてこう語っていた。

「ドイツ戦は簡単な1対1での3ポイント、打たされる3ポイントが多かった。そこはアジャストして、1対1のところでとにかくペイントアタックすることを意識して、第1クォーターから入っていけた」

 ゴール下の「ペイントエリア」へ積極的にアタックするから、相手の守備は外への対応が疎かになる。外のシュートが入ると、今度は相手の守備が広がってインサイドが空く。タマゴとニワトリの関係と同じで、一方がなければもう一方も生まれない。河村のペイントアタックが仲間の3ポイントシュートを引き出し、富永の3ポイントシュートが第4Qにジョシュ・ホーキンソンのインサイドプレーを楽にした。そこはまさにチームの力だ。

河村が第4Qに点火

河村は第1Qからペイントアタックを意識していた 【(C)FIBA】

 第4クォーターは観客の熱狂もあり、強烈なモメンタムが日本に来た。河村は残り8分48秒でコートに戻ると、3ポイントシュートを連発。相手のプレッシャーDFを逆用するロングパスも見せ、試合を完全に支配し始めた。残り4分35秒にはその河村がレイアップを決め、さらに相手のファウルからバスケットカウントのフリースローを得る3点プレーに成功。日本は79-78と逆転する。

 ついにフィンランドは河村の3ポイントシュートを消すために、マルッカネンをマッチアップさせた。213センチと172センチのマッチアップだから「上」のコースが物理的に消されることになる。しかし河村は残り2分41秒、NBAオールスター選手の横から3ポイントシュートを決めてみせた。

 2001年5月生まれのポイントガードは、試合後にこうコメントしている。

「全然やれると思いました。シュート打つまでのフェイクで、マルッカネン選手が揺さぶられている、フリーで打てる感覚が強かった。そこで決め切れるかどうかはまた別の問題でしょうけど、迷いなく打ち切ることができた」

 この時点でスコアは87-78。日本は11得点のラン(連続得点)で試合をひっくり返した。河村は第4Qに15得点の大活躍だった。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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