フィンランドから歴史的勝利を挙げたバスケ日本代表 「22歳コンビ」が18点差逆転の立役者になった理由

大島和人

「2人のポテンシャルはすごく高い」

ホーバスHCの「我慢」が若手のステップアップを呼んだ 【(C)FIBA】

 富永は河村の活躍についてこう口にする。

「4クォーター最後の大事な場面で、あんな立て続けに3ポイントを決めてくれてすごく頼もしかった。3ポイントで相手が切れた部分もあったと思う」

 最終スコアは98-88。第4クォーターに限れば35-15と圧倒した展開で「22歳コンビ」の活躍がもたらした大逆転勝利だった。試合全体のスタッツは河村が25得点9アシスト、富永が17得点で、いずれも3ポイントシュートの成功率は57.1%。比江島、ホーキンソンとともに勝利の立役者となった。

 ホーバスHCはこう述べる。

「後半62点はすごいと思います。本当に富永が熱くなってきて、そこからモメンタムが来て、ウチのリズムになった。河村もよく頑張った、あれは『Bリーグの河村』ですよね(笑)。3ポイントシュート、ドライブ、相手のビッグマンが来てもフロートシュートとか」(※河村はBリーグの2022-23シーズンMVP)

 若手2人についてはこんなコメントを送っていた。

「この2人のポテンシャルはすごく高いです。天井がめっちゃ高いです。相手は大きいし、早いし、強い。でも、ドイツ戦や(強化試合の)スロベニア戦、フランス戦が経験になったじゃないですか。でも僕は河村と富永がいつ爆発するかなとすごく待って、我慢したんですよ」

ケガを押してプレーした渡邊雄太は?

渡邊雄太(左)が若手に力を与えた 【(C)FIBA】

 渡邊雄太は試合後にこうコメントしている。

「経験の差が勝負どころに出てくる中で、勝ち切ったのはチームにとって何より大きな経験値になった。本当に苦しい時間はたくさんありましたけど、僕以外のメンバーが頑張ってくれてやり切れた。僕は今日足が全く動かなかったので、他のみんながやってくれて感謝しかないです。最後5分ぐらいでまたコートに戻されたときは足がぶっ壊れてもいいくらいの気持ちでやっていました」

 渡邊はマルッカネンの守備対応に追われた部分があったにせよ、この試合は4得点2アシストと持ち味を出せなかった。強化試合で傷めた足の状態はまだベストから程遠く、ベンチに引き上げるときは足を引きずっていた。

 しかしその存在と姿勢は若手に火をつけた。東野智弥・技術委員長はこう口にする。

「河村も富永もシュートが全然ダメだったけど、もう元に戻った。この1勝まで苦しんだけれど、このプレッシャーを破ったのはやっぱ渡邊雄太でしたね。彼が苦しんでいる姿を見て、あれだけ足が痛いだろう中で『オレたちが頑張らなきゃ』となるじゃないですか」
 
 W杯はパリオリンピックの予選を兼ねた大会だが、日本はアジア6チームの最上位に入れれば五輪の出場権を得られる。渡邊は8月19日の強化試合・スロベニア戦後、パリ五輪出場という目標を逃した場合の、代表引退を口にしていた。それは28歳でNBAプレイヤー渡邊が示した覚悟の証明で、同時にチームを鼓舞するものでもある。

 渡邊はこんなやり取りを明かしている。

「終わった後に(河村から)『雄太さん、まだまだ引退なんてさせませんよ』という力強い言葉をもらいました」

 いち選手ながら空席問題について勇気を持った発信を行い、関係者を動かしたのも渡邊だった。

「トムが記者会見で言ったことと、僕のツイートに効果があったのか、あれだけのお客さんが入ってくれた。本当に皆さんのおかげです。皆さんがあんな直前にも関わらずチケット買ってくれて、元々チケット取ってくださったお客さんと一丸となって、僕たちのことを応援してくれた。皆さんに感謝しかないです」

成功体験を得て、日本バスケは次のステップに

ファンと一体になってつかんだ勝利だった 【(C)FIBA】

 強化試合とドイツ戦で持ち味を出し切れなかった若手2人が、観客の後押しとベテランの支えもあって思い切ったプレーを続け、フィンランド戦では未来につながる成功体験を得た。そこにはコート内外における渡邊の支えがある。

 結果をつかめば単なる経験以上の自信やプレーの裏付けが手に入る。常勝チームならば話は別だが、日本のようなチームにとって、「ヨーロッパに勝って得る経験」はとてつもなく大きい。

 フィンランド戦の勝利がゴールではない。河村はこう強調していた。

「この素晴らしい相手に勝てたことは、自信にしていいと思います。ただ自分たちの目標はアジア1位で、フィンランド戦を目標にやってきたわけではない。このあと全敗してアジア1位になれなかったら、もう(フィンランド戦の勝利は)意味がなくなる。オーストラリア戦に向けていい準備をして、アジア1位という目標は明確にぶらさず戦っていきたい」

 渡邊はこう口にしていた。

「僕らは国際経験が一番の問題です。ただ経験していたのが今までで、ヨーロッパに勝っていなかった。練習ゲームでは勝っていたけど、あれは練習ゲーム。本番になったときにどれだけのものがないと勝てないのか(フィンランド戦で)初めてわかった。僕は日本のバスケットが、次のステップに行くのではないかと思います」

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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