『ワンピース・オン・アイス』は“台詞を体現するスケーティング” 主人公・ルフィ役の宇野昌磨が披露した、自分の殻を破る演技

沢田聡子

全力で挑む宇野「『絶対に見てほしい』と思えるショー」

宇野はルフィのキャラクターを全身で表現する 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 宇野は、公演に向けて練習した一か月を振り返り「本当に新しい発見ばかりでした」と語る。

「『自分のやってきたフィギュアスケートとは、大きく違ったものになるかな』と思っていました」

 ルフィに対する宇野の印象は「全面的に喜怒哀楽が顔に出るキャラクター」というものだったという。

「僕は顔に表情を出すということをやってこなかったので、難しいことではあったのですが…どうやったらこの大きな会場でお客さん一人ひとりにそれが伝わるのかということを、毎回動画を見たり、アドバイスをもらいながらやってきて。少しずつではあるのですが、僕なりにすごく達成感と言いますか『全力でやり切っているぞ』というものは出せているんじゃないかなと思います」

 世界選手権を連覇した宇野は、高難度ジャンプだけではなく音を奏でるようなスケーティングも持っており、演技構成点においても世界屈指の高評価を得るスケーターだ。ただ本人が語っている通り宇野は顔で表現するタイプではなく、どちらかといえば常に淡々とした表情で滑っている印象がある。

 自身の性格とは少し違うようにも思われる天真爛漫なルフィのキャラクターを、しかし宇野は体を目一杯に使って生き生きと氷上に描き出した。猪突猛進するルフィを、宇野はスピード感あふれるスケーティングに加え、時にコミカルな所作で表現する。リンク上で転がった宇野がお尻を上に向けた体勢で止まった時、そこにいたのは確かにルフィだった。

 その宇野を見て思い出されたのは、今年3月の世界選手権で連覇を果たした直後のミックスゾーンで口にした、表現への思いだ。

「僕がスケートをやってきた上で求めているのは、自分が自分の演技を見返した時に『いいな』と思える演技をしたいということ。正直僕は、この二年間で(自分でいいと思える演技が)できているかと聞かれたら、ジャンプは本当に上手くなったと思いますけれども、『スケーターとしてどうだ』と考えると、あまり『うん』とは思えない。僕はシーズンオフにはいつも『シーズンに向けてどう調整していくのか』ということを考えますけれども、今回はそうではなく、エキシビションやアイスショーに出る中で『どんなスケートをできるか』『こういうスケートもできるんだ』というものを探していけたらなと思っています」

 過去のアイスショーについて「競技会のような演技をずっとしてきた」と振り返り、「そうではなくて『スケーターとしてこうなりたい』というものを見つけ出したい」と語っていた宇野の覚悟が、この公演で演じるルフィに集約されている。

「『ワンピース・オン・アイス』でしか見られない魅力が、たくさん詰まっています」と宇野は力を込めて語る。

「本当に胸を張って『絶対に見てほしい』と思えるショーに、僕はなっていると思います」

『ワンピース・オン・アイス』では、台詞を表現するスケーティングという新しい課題に取り組むスケーター達の情熱、そして殻を破った宇野昌磨の姿を観ることができる。

(©尾田栄一郎/集英社・フジテレビ・東映アニメーション
「ワンピース・オン・アイス」製作委員会)

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著者プロフィール

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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