ソロ2種目連覇の乾友紀子が新ルール下でも追求した理想の演技 大蛇を演じた上半身に詰まった、表現者としてのプライド
ASは足技だけの競技ではない
足技のスピードを上げることで、上半身で表現する時間を確保した 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】
芸術点もトップだった乾は、貫録さえ漂わせてFRでも連覇を果たした。表彰式後のミックスゾーンで井村コーチは、どうしても削りたくない手の振り付けがあったと明かしている。
「(ハイブリッドで)無呼吸の状態が長くなってそこを削るのだけは、私のプライドにおいて許さないと」
「ASが難度のための足技だけになるのは悲しいこと」と考えた井村コーチと乾が選んだ方法は、スピードを上げて1.2~3秒に一つの足技をこなし、DDをとるためにかける時間を短くすることだった。井村コーチは「外国の選手よりも、彼女の方が手の動作や顔、上体が印象に残っていると思う」とコメントしている。
「他の国の選手はハイブリッドで高いDDを取るために、疲れるのが嫌だから、エネルギーを温存して出来るだけ疲れないことをした。でも私は『回れ』『跳び上がれ』とかいろいろ言うから、よく頑張ったなと思います。でもDDを取るために手の動作を減らすのは、私としたらやっぱり許せないし妥協できない。去年と比べたら(手の動作を減らすことも)もちろんやっていますが、精一杯表現の方にも時間を割いて、表現力を表せるような構成にはしたつもりです」
表彰式後のミックスゾーンで、乾は表彰台の一番高いところで流した涙について問われている。
「いろんな意味でのプレッシャーや重圧、不安があったので、ほっとした気持ちと、金メダルを獲得することは簡単なことではないので…特に今回の展開でそう思ったので、『良かったな』と思っていました」
新ルールの下で、勝利だけでなく理想の演技も追求して勝ち取った乾の金メダルは、特別な輝きを放っている。