『進撃の巨人』を表現する三浦佳生、“苦手”に挑む友野一希 ハイレベルな日本男子は、今季も強さを磨く

沢田聡子

スケーティング技術が問われる友野のショート

シンプルな振付に挑戦する友野一希 【写真:松尾/アフロスポーツ】

 昨季世界選手権6位の25歳、友野一希が新しいショートプログラムで使用する『Underground』は、不思議な印象を与える歌詞に深い意味が含まれている曲だ。

「歌詞だけを見ると電車にひかれた人の話なのですが、裏の意味があって。人生や恋愛の素晴らしさを表現している曲で、そういった部分を表現できればいいなと思います」

 この『Underground』で目指すのは「少し余韻が残るような、今までとは違った印象」だという。

「静まり返るような、でその後に“ワーッ”となるような、そんな反応が理想かなと思います」

『Underground』を歌うコーディ・フライは、友野がいつかプログラムで曲を使いたいと考えていたアーティストだという。また、ここ2シーズンはショート・フリーともにミーシャ・ジー氏が振り付けていたが、新たな挑戦をしたいと考えた友野がジェフリー・バトル氏に振付を依頼。憧れの存在だったというバトル氏が手がけた『Underground』は、友野の念願がかなって生まれた作品だといえる。

 踊り心がある友野は、今までは曲の盛り上がりに合わせて細かくステップを踏んでいく印象が強かった。しかし緩やかな旋律が続くこの『Underground』では、常に一蹴りで長く移動することに心を砕いているようにみえる。友野自身、「今までとは違った伸びやかで少しダイナミックな印象なので、そういったスケートを見せられたらいいなと」「シンプルな振付で、だからこそスケーティング技術のごまかしがきかないプログラムになっている」と語る。

 友野は、今季はショートだけでなくフリーも「自分の苦手とする部分が出るプログラム」だと明かした。「今年はあえてそういった曲を選んでいます」という。

「何年もシニアでやってきて、いろいろ自分の強さも分かってきて、さらにもっともっと成長したいなと思った」

 友野が挙げた自らの弱点は、“ポジションの正確さ”“ボディコントロール”“フリーレッグ(氷についていない方の足)”、そして“スケーティングの伸び”である。

「一年を通してそういったものがしっかり出るようなプログラムをやることで、しっかりその弱点を克服して、成長していければいいなと思っています」

 現在、友野は基礎練習に力を入れているという。完成度の高いスケーターになるという夢へ近づくため、自ら選んだ道だ。

 ジュニア時代にはジュニアグランプリシリーズの選考で漏れる悔しい経験もしている友野は、常に自分を分析して強みを伸ばし、また弱点を克服した結果、今の立ち位置まで上がってきたのではないだろうか。この日の公演でも選手席で他の選手の演技をたくさん見ていたことについて問われると、友野は「シンプルに楽しいっていうのもありますし」と答え、言葉を継いだ。

「それぞれみんなが滑っているのを見て、どういったところがその選手の強さだったり学べるところだったり、逆にどういったところが足りないのかなっていうのも…分析しながら観ているわけではないですが、とにかく楽しんで観ていましたね」

 そのクレバーな視線は、友野自身にも向けられているのだろう。

「この次は、世界の舞台でメダルをとるだけだと思っている」と友野は意気込む。

「全試合で表彰台に乗れるように。そういった気持ちで、一つひとつ大切にこなしていきたいなと思います」

 体力の限界に挑む三浦、そして弱点克服を目指す友野が、今季も日本男子のレベルを押し上げていく。

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著者プロフィール

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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