J2首位の町田が「苦手」を克服して2点差から逆転勝利 黒田剛監督が成功させた新しい攻撃戦術とは?

大島和人

チーム全体の用意が生んだ苦手科目克服

松井蓮之はJ1川崎から5月下旬に「育成型期限付き移籍」で加入した 【(C)FCMZ】

 町田が大宮戦で狙っていたのは「ポケット」と呼ばれるペナルティーエリアの両脇。そこで前向きにボールを持って仕掛けられれば、高確率で得点につなげられる守備の急所だ。

 73分には3人が絡んだ理想的な崩しが出る。松井は平河にボールを預けてそのままスペースに走り込み、平河をサポートした安井がワンタッチのスルーパス。そして松井はエリアの右角付近の「ポケット」から決定的なクロスを入れた。得点には繋がらなかったが、このあと大宮は内側を消す意識を強めたように見えた。

 すると平河が外からの縦突破を増やす。79分の同点につながったコーナーキックは平河の仕掛けから得たものだった。

 平河は振り返る。

「ポケット攻略という課題を持って、今週は練習していました。自分がドリブルをしたら2枚来るけれど、そのときはエリキが走って(DFを背後のスペースに引っ張って)くれて、蓮之くんが空いたりもしました。効率よく回せた感触があります」

 もちろん右サイド『だけ』が町田の勝因ではない。荒木駿太はポケットのスペースへ動き出す、縦パスを受けるという役割をよく遂行していた。75分からピッチに入った左サイドの太田宏介、FW藤尾翔太も重要な役割を果たした。2得点を挙げたFWエリキが大宮戦のヒーローだったことは説明するまでもない。平河が言うようにエリキのスピードや動き出しがあるからこそ相手DFはラインを下げ、他のアタッカーのマークが弱まった。

 また大宮戦の攻撃戦術は、金明輝コーチがサガン鳥栖の監督時代に取り入れていたものと近い。2点ビハインドからの逆転勝利は、選手やコーチの持つ引き出しをフル活用した結果でもあろう。

堅守速攻スタイルから遅攻で上積み

 かくして「手前」「内側」のスペースを攻略し切れず、手間をかけた崩しに苦労していた町田が『苦手科目』で及第点を出した。DAZNの中継で紹介されていた大宮戦のボール保持率は68%。引いた相手に対して、ボールを持たされる展開という宿題に対して、右サイドのユニットが答えを出した。新戦力の松井、直前のトレーニングといった要素が鮮やかにハマった。

 相手が外を消そうとしてきたら、内側は空く。裏のスペースを埋めてきたら、手前のスペースが広がる。そうやって相手の守り方を見極めて、チーム全体が狙いどころを共有できれば攻撃は回り始める。

 しかし守備に比べると、攻撃は構築に時間がかかる。今季の町田は監督、コーチが総入れ替えとなり、先発メンバーも半分以上が新加入選手だ。J2優勝を目指す上でまず守備の整備から手を付けるのはオーソドックスな順序で、実際にそれが首位独走という結果を生んでいる。

 ただそんな町田がシーズン半ばにプランBを成功させた。ボールを持たせて引いて対応する大宮から3得点を奪い、逆転勝利を挙げた。5日(水)に大分トリニータ、9日(日)に東京ヴェルディと上位対決が続く中で、「ボールを持っても打ち手がある」と証明できたことはJ2制覇に向けた大きな収穫だ。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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