内海哲也『プライド 史上4人目、連続最多勝左腕のマウンド人生』

「俺はお前に夢を見た」プロ2年目、内海哲也が涙を流した監督からの叱咤激励

内海哲也

入団3年目の「変な自信」

 不甲斐ない成績に終わった2005年のペナントレースが終了すると、宮崎で行われたフェニックス・リーグに参加しました。若手の育成を目的としたこのリーグで投げていると、なぜだか打たれるイメージが湧きませんでした。
 来年こそ、一軍でやっていける――。
 理由はわかりませんが、変な自信があったんです。新たに就任した原辰徳監督にも褒めていただきました。
 2005年シーズンの登板で何かをつかんだ、というわけではありません。一軍で阪神の金本さんやアンディ・シーツ、広島の緒方孝市さんやグレッグ・ラロッカなどと対戦したことで、強打者と対峙するイメージを持てるようになりました。一軍に場慣れして、来年こそ結果を残さなければという責任感が込み上げてきたのだと思います。

 シーズンオフに京都の実家へ帰って母親や兄弟、親戚が集まったとき、ご飯を食べながらいろんな話をしました。その際に「来年、どうなん?」と聞かれました。
 「いけると思う」。そう答えて、同じような話をしました。当時は23歳と若かったから、根拠のない自信のようなものがあったのかもしれません。

 実際、年が明けて春季キャンプから状態もよく、3月1日に東京ドームで行われたワールド・ベースボール・クラシック(WBC)エキシビションゲームの日本代表戦では4回に3番手でマウンドに上がり、3回2安打無失点に抑えることができました。いきなり迎えたイチローさんとの対戦ではカーブで空振り三振を奪うと、2回目の対戦では真っすぐで内角を突いた後、チェンジアップでレフトフライに打ち取ります。思い切り腕を振ることだけを考えた結果、まさかイチローさんをはじめ錚々たるメンバーを抑えられるとは思いませんでした。キャンプから取り組んできたことが出せて、大きな自信になりました。

 約1カ月後に2006年のペナントレースが始まると、「一軍でやっていける」という感覚は合っていました。
 開幕ローテーションには入れませんでしたが、それはわかっていたことです。工藤さん、桑田さん、上原さん、(高橋)尚成さん、新外国人のゲーリー・グローバー、ジェレミー・パウエルという6枚が先発陣にそろっていたからです。僕はオープン戦で完璧に近い結果を残すことができましたが、「2番手のロングリリーフ要員として待機してくれ」と言われました。チーム状況を考えるとそういう起用法になるのは仕方ないと思いつつ、いつか先発のチャンスが回ってくるはずだと前向きに捉えていました。

 その機会は思いがけない形でやって来ます。4月8日、開幕から8試合目の中日戦で先発予定だったヒサさん(高橋尚成)が5日のヤクルト戦をベンチから見ていた際、打球が顔面を直撃。右頰を骨折して戦線離脱となりました。
「ヒサさんのためにも頑張ってきます!」
 プロ入り1年目から本当にお世話になってきた先輩にそうメールしました。
「任せた!」
 そう返信してくれたヒサさんの思いも背負って中日戦のマウンドに上がると、6回無失点で勝利投手になることができました。ヒサさんの分も頑張ろうという気持ちに加え、野間口貴彦、西村健太朗ら若手投手も必死にアピールしていたので、「内海もいるんだ」と訴えたい気持ちもプラスに働きました。真っすぐとカーブで緩急をつけ、攻めるピッチングができたと思います。

 翌週の4月15日の横浜ベイスターズ戦でプロ入り初完投を飾ると、続く22日の阪神戦でも連続完投勝利を達成しました。先発投手にとって最後まで投げ切るのは常に目標としていることなのですごくうれしかったはずですが、不思議なことに、これらの記憶が今ではまったく残っていません。

 反対に、悪かった試合のことはよく覚えています。プロ1年目にサンマリンスタジアム宮崎で3失点した一軍初登板や、同年に初先発した東京ドームでの阪神戦で8回、金本さんに打たれた逆転ホームランは忘れることができません。悪いことばかり記憶に残っていて、逆に良かったことは忘れてしまいます。
 覚えておくためにも、タイトル獲得や表彰のトロフィーはできるだけたくさんいただき、形として残しておいたほうがいいと思います(笑)。

【写真提供:KADOKAWA】

巨人、西武の投手として19年の現役生活を終え、2022年に引退した内海哲也。
「自称・普通の投手」を支え続けたのは「球は遅いけど本格派」だという矜持だった。
2003年の入団後、圧倒的努力で巨人のエースに上り詰め、
金田正一、鈴木啓示、山本昌……レジェンド左腕に並ぶ連続最多勝の偉業を達成。
6度のリーグ優勝、2度の日本一、09年のWBCでは世界一も経験するなど順調すぎるキャリアを重ねたが、
まさかの人的補償で西武へ移籍。失意の中、ある先輩から掛けられた言葉が内海を奮い立たせていた。
内海は何を想い、マウンドに挑み続けたのか。今初めて明かされる。

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