女子ボクシングのニューヒロイン・晝田瑞希インタビュー 「革命を起こす」ために挑戦したロサンゼルス合宿

船橋真二郎

ボクシング人生の大きなターニングポイントに

ロサンゼルス合宿で経験した練習メニューを取り入れ、計10kgのおもりをつけたベストを着用してシャドーボクシング 【写真:船橋真二郎】

――加藤(健太)トレーナーからもアメリカに行ったほうがいいと後押しされたそうですね。

 はい。ずっと私がアメリカで試合をしたいとか、海外でやってみたいとか、大きな舞台でやりたいということを伝えてましたし、加藤さんも、国内だけじゃなくて、私が海外で活躍してほしいと思ってくださっていて。「頑張ってきて」って。

――ロサンゼルスでは、3週間の間にいろいろなジムに?

 いや、ずっと同じマニー・ロブレスのジムでお世話になりました。日本から向こうに行くときって、いろんなところでスパーリングをさせてもらうとか、スパー中心で行くことが多いと思うんですけど、行くんだったら、私はちゃんと指導も受けたかったので、トレーナーにお金を払って、しっかり見てもらいました。

――マニー・ロブレスとマンツーマンで?

 チームなんですよね。トレーナーは、マニーがいて、マニーの息子がいて、エドガー(・ハソ)っていうアシスタントのトレーナーと3人いるんですよ。誰に教えてもらっても同じような指導法で。だから、その3人に見てもらったんですけど、自分が思ってた以上に仲間に入れてもらいました(笑)。朝7時から走ったり、公園でサーキットをやったり、ジムワークだけじゃなくて、フィジカルトレーニングも見てもらって。ほんとに全部、一緒にやらせてもらった感じでした。マニーのところで学びたいって、いろいろな国から集まってきた選手たちと。みんな、レベルの高い人たちばかりで、一緒にトレーニングできて勉強になったし、刺激になりました。

――技術的な部分で勉強になったことは?

 もちろん、ミットひとつにしても、今までやったことのない練習がいっぱいあったんですけど。マニーのジムはメキシカンのボクシングだから、しっかり強く打つ、体を使って打つとか、打って、下がるんじゃなくて、横によけて前で前で戦うとか。今までの自分になかった戦い方を教えてもらいました。今回は特に攻撃面を勉強しに行った感じだったので。

――自分のテーマとして攻撃面を強化したかった。

 そうですね。スパーリングが週3回、固定で月・水・金、2日に1回やる感じであったんですよ。で、初めてスパーするとき、「自分のボクシングをやってみて」って、マニーに言われてやったんですけど、日本では通用した私のアウトボクシングが通用しない場面が多かったんですね。あっちの人は、ほんとにパワフルで、細かいジャブぐらいじゃ止まらないし。(2階級上の)スーパーバンタム級の選手とやったのもあるんですけど。

――どんどん中に入ってこられるような感じ?

 そう。(距離を)潰される感じ。パンチ力ももちろんなんですけど、そもそもの体の強さ、体の圧力をすごく感じて。「あ、寿命、縮まってるわ」って思いながら、スパーしてました(笑)。でも、通用するところもあったし、「あなたはいいカウンターボクサーだよ、いいところがあるよ。だけど、もっと良くなるよ」っていうふうに言ってもらえて。打って、下がるんじゃなくて、横に動くとか、今までやってきたことにプラスアルファする感じで教えてもらいました。だから、自分のいいところは変える必要がないことも分かったし、ここに付け加えていけたらいいなって。

――打って、横に動くというのは、横にポジションをずらしながら、インサイドにとどまって、攻め続けるということだと思うんですけど。谷山さんとの世界戦は、一発打ったあとに体が密着してしまって、攻撃が続かない場面が多かったですよね。試合後、加藤トレーナーが「ストップするところまで持っていけたら最高だった」と言っていましたけど、その横の動きができたら、もっといい結果になっていたかもしれないし、課題とつながるところもあったんじゃないですか。

 そうですね。でも、それも場面とか、相手によって変わってくることだから、使える技をいっぱい自分の中に作っておくうちの1つっていうイメージですね。引き出しが多いほうがいいわけじゃないですか。

――どんな場面、相手に対しても対応できるように。3週間やり切って、いろいろプラスできたところもありましたか。

 でも、言ったら、たった3週間なんですよ。これで強くなったみたいな満足感はないし、まだ帰りたくない、ここで終わりたくないってなったんですね。もっと学びたい、もっともっと一緒に練習したいっていう気持ちで帰ってきて。これはまだ強くなるためのきっかけでしかないと思ってるし、また次があると思っていて。マニーも「これはただの始まりに過ぎないよ」って言ってくれたし、エドガーも「次の試合に勝って、また戻っておいで」って言ってくれたので。ただ、アメリカに行ったことで、私はまだまだ強くなれるし、もっと強くなりたいっていう欲が出てきましたし、きっかけをつかめました。間違いなく、この先の私のボクシング人生の大きなターニングポイントのひとつになるんじゃないかな、と思ってます。

<後編は6月4日に掲載予定>

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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