J1月間MVP 広島ドウグラス・ヴィエイラが語る完全復活の理由 「今年は“本当のドグ”を見せられている」

中野和也

気持ちが溢れすぎて……爆発

ともにプレーするようになって4年目、同胞であるMFエゼキエウ(左から4人目)の存在もドウグラス・ヴィエイラにとって大きい 【(C)J.LEAGUE】

――横浜FC戦(4月15日/○3-0)でもエゼキエウ選手のクロスからゴール。さらにセレッソ大阪戦(4月29日/○1-0)では、ほぼラストプレーというタイミングで、またしてもエゼキエウ選手のクロスからのボレーシュート。彼に聞くと、そのちょっと前のシーンではマイナスのボールを出して引っ掛かったので、次はGKとDFの間を狙おうと思っていたそうです。そのあたりの意思疎通も完璧でしたね。

 あの場面は、自分は走らないといけないし、エゼはパスを出さないといけない。そこはお互いが分かり合わないといけないんだけど、完璧なタイミングでしたね。どうしてああなったかは、言葉では説明できない。自分は(エゼが)パスを出してくれるのを信じていたし、エゼも自分を信じてくれている。完璧に分かり合っているとは思います。そういう意思統一ができているから、簡単にプレーできるし、結果に繋がっている。

――本当にふたりのコンビは息が合っているんだけど、エゼキエウ選手が2020年に来日してからずっと、公私ともに一緒に過ごす時間が長かった。特に来日1年目、彼がメンタル的に苦しい時に、そばにいてサポートしてあげたのはドウグラス・ヴィエイラ選手でした。そこから長い時間をかけて作ってきた関係性が、今に繋がっている感じがする

 それはありますね。常に一緒に過ごしていますからね。お互いの家に行くことも多いし、子どもたちも一緒に遊んだりしています。常に話をしながら一緒にいることで同じ考え方に繋がるというか、お互いにわかりあえるというか。自分もそう感じていますね。

――エゼキエウ選手に以前、「ドウグラス・ヴィエイラ選手のことをどう思うか」って聞くと「お父さんみたいだ」と言っていました。ご自身は彼に対してどう感じているのですか?

 子どものように感じますね(笑)。「エゼはガキみたいだな」って、いつも冗談で言ってるんです(笑)。ただ僕が本当に強く信じているのは、神様は自分の人生にとってプラスになる人を送り込んでくれるっていうこと。自分とエゼはそういう関係ですね。時にはお父さんと息子であったり、友人だったり、仲間であったり。自分たちがいい時も悪い時も、常にお互いが支え合ってる。本当に良い関係です。

――C大阪戦のゴールの時、ドウグラス・ヴィエイラ選手が珍しく興奮して、思わずコーナーブラックを蹴ってしまい、フラッグは折れてしまった。試合後、すごく反省していた姿を見たんだけど、あんなにエキサイトした理由は?

 あの時は、僕自身も本当に興奮していた。本能というか、頭ではなく身体から想いが噴き出てきたというか。(コーナーフラッグを蹴ったのは)僕自身が意識してやったわけじゃなくて、本当にいろんな想いがあったなかで、無意識にやってしまった。ゴールも決めサポーターも喜んでくれた、という喜び。一方で「もっと試合に出たい。自分は今、すごくいい状態にあるのに(スタートから)出られない」という感情もゼロではなかった。そういう状況もあって、いろんな気持ちがあふれ過ぎて爆発してしまった。

 もちろん、自分がやったことについてはすぐに反省しましたし、ファン・サポーター、そしていろいろな方々に対してお詫びもしました。やったことはいいことではない。それは、自分でも感じています。Jリーグが1試合の出場停止という処分を自分に科したことは、本当に正しいと思います。自分が間違いを起こしたことを自分自身が強く認識しないといけない。やっちゃいけないことをしたと、反省の気持ちを強く持たないといけない。自分だけでなく周りの人々も、今回については勉強になったかもしれないですね。しっかりと反省し、自戒を込めて次に向かっていきたいと思っています。

広島に来る前のドグに戻るんだという気持ちで

16年に来日して東京Vで3年間プレーしたのちに広島に加入。5年目を迎える今季は、本領を発揮している 【(C)J.LEAGUE】

――ドウグラス・ヴィエイラ選手の反省の想いは伝わっていると思います。そういう人柄のストライカーを、広島のみなさんは愛してくれていると思いますね。2019年の移籍から今年で5年目。広島での4年間で、いろいろなことがありましたが、その思い出は?

 いいこともあったし、ケガも何度もありましたね。本当に広島はいいクラブだと感じています。すごくたくさんの友だちもできたし、たくさんのいい思いも味わってきました。町もすごくよくて、自分に合っている。ただ、サッカーについて言えば、今までの自分は本当の自分じゃなかった。広島に来るまでのドグと、そこからのドグは、同じドグではなかった。

 今年は違う。本当のドウグラス・ヴィエイラというストライカーを見せるっていうかね、自分自身の力をもっと見せるっていうことを考えているんです。監督が使うか使わないか、成功するかしないかっていうのは何も考えずにいこう、と。来る前のドグに戻るんだという気持ちで今年は臨んでいるし、ここまでそれはできていると思っています。

――それは、今の広島がJリーグの中でも攻撃的なスタイルで戦っていること、それが大きな要因なんでしょうか。

 そのとおりです。オフェンシブに戦うことで自分のスタイルが活きる。得意なことに集中できる。それが今、できている。

――昨年のYBCルヴァンカップ決勝はケガで出られなかった。今年はタイトルを獲って、ピッチでカップやシャーレを掲げたい?

 はい。個人的なことになりますが、ケガをしてタイトル獲得の場にいることができないのは、気持ちが本当に痛い。もちろん、チームが優勝して仲間が喜んでいるのは自分も喜ばしいし、嬉しい。でも、自分もそこにいないといけないと、強く感じました。去年、ルヴァンカップで優勝した時、奥さんにね「来年は違う。絶対にこの状況を覆して、試合に出てタイトルをとる」と。

 今年、自分はすごく強い気持ちでシーズンに臨んでいる。その強い気持ちがありすぎて、ちょっとエスカレートしすぎた部分はあった。ただ、今年は本当にその強い気持ちをもって、仲間と一緒にタイトルをとりたい。Jリーグのタイトルを、みんなでとりたい。それが、自分の気持ちです。

――改めて、4月度の月間MVP、本当におめでとうございます。

 ありがとう。

2/2ページ

著者プロフィール

1962年生まれ。長崎県出身。広島大学経済学部卒業後、株式会社リクルートで各種情報誌の制作・編集に関わる。1994年よりフリー、1995年よりサンフレッチェ広島の取材を開始。以降、各種媒体でサンフレッチェ広島に関するリポート・コラムなどを執筆。2000年、サンフレッチェ広島オフィシャルマガジン『紫熊倶楽部』を創刊。近著に『戦う、勝つ、生きる 4年で3度のJ制覇。サンフレッチェ広島、奇跡の真相』(ソル・メディア)

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント