6連勝でJ2首位と快進撃の町田 “高校サッカー出身”の黒田剛監督はなぜ成功しているのか?

大島和人

「しつこく」「突き詰める」アプローチ

奥山政幸(右)は今季から主将を任されている 【(C)J.LEAGUE】

 もっとも「ボールを持たせる守備」は決して簡単なものではない。黒田監督の徹底したアプローチが町田の躍進を生んでいる二つ目の理由だ。

 髙江は言う。

「ゴール前の守備、シュートブロックは監督が一番と言っていいほど求めているところです。始動日からそこは求められていて、選手1人ひとりが意識して、もう染み付いているのかなと思います」

 奥山も述べる。

「意識するべきところはしつこく、こちらが『もう分かっているよ』となるくらいまで要求してこられる方です。こうやって勝っているときでも“なあなあ”にせず、大事にしている部分を突き詰めてくれる監督です。どんな状況でも緩まないところは『高体連らしさ』『先生らしさ』かもしれないですけど、そこが今はいい形で機能していると思います」

「みんなでチームを作り上げている」

 もちろんチームは監督“だけ”が動かすものではない。町田には金明輝ヘッドコーチ、山中真コーチ、不老伸行GKコーチら合計8名のコーチングスタッフがいる。それぞれのコーチがバラバラの内容を選手に伝えていたら、チームは強くならない。

 青森山田高サッカー部は付属中も含めるとコーチが今の町田と同等かそれ以上に多い体制で、黒田監督は「コーチングスタッフへの権限移譲と統括」「組織のマネジメント」に関わるスキルを既に持っていた。選手との向き合いについても、彼は松木玖生(FC東京)のような主張が強い、いい意味で監督に歯向かってくるタイプの“牙”を抜かないままプロに送り込んでいる。町田では就任直後から選手の意思表示、提案を促す発信をしていたが、それも変わらぬ指導スタイルだ。

 奥山は黒田監督のキャラクターをこう評する。

「ユーモアがありますし、選手と冗談を言い合ったりすることもあります。トップダウンというイメージがありましたけど決してそうでなく、チームでお互いにコミュニケーションをとりながら、非常にいい空気でやれています。選手から意見を出して、しっかりとスタッフ陣が揉んでくれて、翌日には答えが返ってくる循環もできている。みんなでチームを作り上げている感じがあります」

 もちろん選手の意見、コーチの議論を受けつつ、最後に決断するのは監督の仕事だ。ただ町田の新監督には選手やスタッフを受け身にせず、自発性を引き出しつつ納得させる対話スキルがある。

プライドを持つ“プロ”を相手にして

デューク、エリキ、グティエレスといった外国籍選手もフィットしている 【(C)J.LEAGUE】

 ポープは東京ヴェルディのアカデミー育ちで、青森山田とは明らかに違うカルチャーで育ってきた選手だ。本音を言うと、彼のようなタイプが黒田監督と合うのか、疑問に思っていた。

 しかし彼は我々の想像以上に“黒田流”と馴染んでいる。

「これだけ当たり前のことを徹底すると、こんな変化が出るんだなと……。7試合で1失点って簡単なことではないですけど、かといって僕が毎試合大きな仕事をしているわけでもありません。プロの世界に限っては、僕らの方が長くやってきましたし、僕らにもプライドがあります。だけど、それを上回るぐらいのものを見せてくれますし、これだけ明確に結果が出ると、僕らも納得せざるを得ない」

 黒田監督との出会いから、充実感も得ている。

「僕らは評価される側ですけど、評価する側でもあったりもします。(黒田監督は)話し方が上手だし、理解しやすいですね。ミーティングが長かったりはしますけど、プロに入ってベースの部分をここまで追求される、見直さなければいけない経験は初めてでした。本当にそれは新鮮でしたし、学びが多いですし、楽しめています」

「チーム全体にいい風が吹いている」

 プロの監督はどんなに話が上手くても、緻密な戦術を用意していても、結果が出なければ求心力は落ちる。Jリーガーには高校生のような“3年縛り”がなく、チームと合意できるならシーズン中に移籍することも可能だ。「言う通りにプレーしても結果が出ない」と思われたら、選手の気持ちは離れる。しかし町田では結果が監督の求心力を呼び、求心力がチームの結果を生むサイクルが生まれている。ボールを持たれる展開でも、自分たちの試合運びに自信を持ち、自ら揺らぐことなく時計の針を進められている。

 「話しの上手さ」「理解しやすさ」は、クラブ外への発信にも好影響を与えている。「監督記者会見の内容が豊富で面白い」という評判を、今季はSNSで頻繁に目にする。どんな質問に対しても、正面から納得感のある答えを返す“言葉の力”は、Jリーグの監督でも最高レベルだろう。

 町田は昨年2月に新しい練習場が完成し、2面分の天然芝ピッチとクラブハウスを持つJ1上位レベルの施設を持つようになった。今季はコーチングスタッフ、通訳、トレーナーなど選手を支える人材も大幅に増員されている。そのような組織の管理職として、黒田監督がフィットしている。

 ポープは言う。

「(監督から)まずベースのフィジカルを上げてくれという言葉があったので、それも選手はしっかり取り組んでいます。トレーニング器具も増えてきています。コーチも選手に対して個人的にアプローチをしてくれたりして、本当に恵まれた環境です。チームが大きく変わろうとするタイミングで、選手としても成長することを求められて、僕もやり続けなければいけない。チーム全体にすごくポジティブな、いい風が吹いているのを感じます」

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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