6連勝でJ2首位と快進撃の町田 “高校サッカー出身”の黒田剛監督はなぜ成功しているのか?
黒田剛監督は青森山田高からプロに転じている 【(C)FCMZ】
黒田監督は現在52歳で、28年にわたって青森山田高校の監督を務めていた。全国高校サッカー選手権を通算3回制するなど、高校年代では強烈な実績を残している。2006年にはJクラブの監督を務める前提となる「JFA公認S級コーチ」のライセンスも取得していた。とはいえ同じ監督でも高校とプロは別世界だし、高校と大学でさえカルチャーにははっきりと差がある。サッカー以外も含めて、キャリアが高校の部活に限られる指導者がプロで成功した例を筆者は今まで知らなった。
高校の監督は選手獲得などチームの“全権”を握るケースが多く、成績が不振でも教職から追われることはほぼない。選手との関係性もプロとは明らかに異なる。「従順な高校生に慣れた指導者が、プロに適応するのは難しい」という指摘も目にしたが、一般論としてそれは間違っていない。
開幕から7試合の段階で「成功」と断じるのはまだ早いかもしれないが、黒田監督は間違いなく町田で想像以上の手腕を発揮している。今回は黒田流が軌道に乗っている理由を、選手たちの言葉から探ってみたい。
相手に「持たせる」試合運びが機能
「相手に主導権を握られる時間帯も長かったですけど、ゲームプラン的に持たれるのが大前提でしたし、しっかりと最後の部分を守り切る全員の意思統一がありました。それが結果につながったと思います」
立ち上がりの町田はハイボールやクロスをフォワード(FW)のミッチェル・デュークに集め、藤枝を押し込んだ。ただし開始5分にデュークが先制点を上げると、必要以上に前へ出ていかなくなる。すると[3-4-2-1]の布陣で藤枝がボールを握り、[4-4-2]とのズレやサイドの数的優位を生かす展開になった。町田から見ると“ボランチ脇”のスペースを突かれ、サイドバック(SB)とサイドMF、ボランチの守備における連携に課題を残す試合だった。
一方で藤枝に60%のボール保持を許した展開だったものの、町田にとって本当に危険だった場面は34分の横山暁之がエリア外から放ったミドルシュートのみ。6試合で5得点を挙げていた藤枝のFW渡邉りょうをシュート0本に封じたことは守備の成功だ。攻撃もカウンターから決定機は作っていて、町田が藤枝に「ボールを持たせる」展開でもあった。センターバック(CB)のグティエレスと池田樹雷人を中心に、要所を締める対応ができていた。
MF髙江麗央は述べる。
「自分たちの気持ち的には『持たせる』感覚でやれていました。ボールを持たれること、どんどん中に(パスを)刺してくることは分かっていたけれど、僕とイナくん(稲葉修土)のところで回収できた部分も多かった。前の選手が上手く(ボールの動きを)限定してやってくれた。難しいところもありましたけど、チームとして守れました」
そんなに「ルール」は多くない
ポープ・ウィリアムは開幕からの7試合で1失点しか喫していない 【(C)FCMZ】
今季の町田は主力選手が大幅に入れ替わり、藤枝戦の先発を見ると11名中6名が新加入だった。しかも監督はプロ初挑戦なわけだが、開幕早々から隙のない守備が実現している。選手が口を揃えてコメントしていた背景が「当たり前が徹底されている」ことだ。
ポープはこのように解説する。
「チームの決まり事はもちろんありますけど、そんなにルールは多くありません。CBがあまり出過ぎないとかCBを中に残すとか、追い越してきた選手を誰が見るとか、そういったものです。ただ優先順位はしっかりとあります。あとクロスに対しての守備は本当に口酸っぱく言われています。(正対してボールから目を切らず)へそで見ながら最後はしっかりと身体を投げ出す部分は徹底されています。だから本当にクロスから(GKのポープに)ボールが飛んでこないし、(CBの)グティエレスやSBがしっかりと跳ね返してくれます」
黒田監督も会見でこう説明している。
「中央へのクサビに対して、できるだけCBが中央にいることを担保したいので、あまり前に出ずボランチとの挟み込みで対応してほしいと話していました。最終的にはサイドにボールが出て、クロス勝負になってくるので、CBが外につり出されないようにすることは、チームの約束事です」
リードした時間帯の試合運びが強みに
「僕たちのCBとGKのユニットはJ2でも上位の力がある選手たちです。ボールが入っても守ってくれる自信があるし、今はどんと構えて、(縦パスを)刺されたとしても別に最終をやらせなければいいという思考ができています。ボランチとCBとSBの関係性で、最後のところはやらせない守備ができています」
グティエレス、池田はJ2でも屈指の防空能力と強さを持つ2人で、CBがエリア内で勝てるところから逆算して町田の守備は構築されている。「エリア内」「中央」に“保険”をかける慎重さが、7試合で1失点という成果につながっている。
町田がベタ引きのチームかといえばそれは間違いで、試合のスタートや終盤にハイプレスを使うこともある。ただ堅守が機能する中で、今季は630分間でまだ一度もリードを許しておらず、そのうち361分は「リードした状態」で試合を進めている。町田はそんな時間帯の、受ける試合運びをチームの強みにしている。