【WBC総括】現地で激闘を見届けた3人の外国人記者が語る「侍ジャパンの勝因とWBCの未来」

杉浦大介

まるでドラマのようなエンディングで、日本が3度目の世界王者に輝いた第5回WBC。外国人記者たちも、過去の大会以上の盛り上がりを実感したようだ 【Photo by Masterpress - Samurai Japan/SAMURAI JAPAN via Getty Images】

 第5回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)は、まるで映画やドラマのような劇的な結末となった。

 日本対アメリカという最高の組み合わせとなった決勝戦は、3-2と日本が1点をリードして9回に突入。日本のクローザーとしてマウンドに立った大谷翔平が、2死からエンゼルスの盟友マイク・トラウトを空振り三振に斬って取り、試合を締めくくったシーンは、WBC史上に残る名場面として長く語り継がれるはずだ。

 では、こうして最後の最後で最高の盛り上がりを見せた今回のWBCを、海外メディアはどう見たのだろうか。日本はなぜ他の強豪国を上回り、14年ぶりの世界一に返り咲くことができたのか。5回目の開催を迎え、トーナメント自体は成長していると言えるのか──。

 ここでは、WBCを現地取材した3人の外国人記者に5つの質問をぶつけ、彼らのコメントから今大会を総括したい。話を聞いたのは、MLBのオフィシャルサイト『MLB.com』のマイケル・クレア記者(アメリカ)、アメリカの全国紙『USA TODAY』のボブ・ナイチンゲール記者(アメリカ)、そしてベネズエラのベースボール専門サイト『El Extrabase』のダニエル・アルバレス・モンテス記者(ベネズエラ)だ。

優れた投手力は優れた打力を上回る

決勝での日本の勝因は、「WBC史上最高」とも言われる投手陣にあった。ダルビッシュではなく、今永を先発で起用した采配も見事だった 【Photo by Megan Briggs/Getty ImagesPhoto by Megan Briggs/Getty Images】

──決勝戦で勝敗を分けたポイントはどこにあったのか?

クレア記者 日本の勝因は、投手陣がアメリカ打線を抑え込んだことに尽きる。私も含め、アメリカがわずか2得点に封じられると思った人間はほとんどいなかったはずだ。

 私は日本が勝つとは思ってはいたが、打撃戦を予想し、マイク・トラウト、ポール・ゴールドシュミット(カージナルス)、ムーキー・ベッツ(ドジャース)も、それぞれの仕事を果たすと考えていた。しかし、それを上回ったのが栗山英樹監督の采配だった。彼のブルペンの使い方は特筆に値し、早目早目の継投でアメリカに的を絞らせなかった。

 また、4回に生まれた岡本和真(巨人)の本塁打も分岐点の1つとなった。緊迫した投手戦の中で、点差が1点から2点に広がったことで、アメリカにプレッシャーが重くのしかかったはずだ。

ナイチンゲール記者 日本の投手陣の優れたピッチングが違いを生み出した。私は3-2というスコアでの日本の勝利を予想し、実際にその通りになったが、今大会の日本はWBC史上最高の投手陣を擁していたと考えている。

 アメリカの選手たちが、日本のほとんどの投手と対戦経験がなかったことを考慮すれば、ダルビッシュ有(パドレス)ではなく今永昇太(DeNA)を先発させ、以降も小刻みにNPBの投手をつぎ込んだのは、素晴らしい戦術だった。「優れた投手力は優れた打力を上回る」という真理が、改めて示されたと言えるだろう。

モンテス記者 日本のブルペンの使い方は見事としか言いようがなかった。誰もがダルビッシュが先発すると思っていたのに、今永を起用したことには驚かされた。スーパースターが名を連ねたアメリカ打線の目先を変え、素晴らしい成功を収めたことに関して、首脳陣は称賛されてしかるべきだ。

大谷はまるでリトルリーグの選手のように

大会MVPに輝いた大谷。決勝でも1イニングのみの登板だったとはいえ、巨大なプレッシャーの中で1点差を守り切ったことには、計り知れない価値がある 【Photo by Masterpress - Samurai Japan/SAMURAI JAPAN via Getty Images】

──あなたが決勝戦のMVPを選ぶなら?

クレア記者 多くの選手が勝利に貢献しただけに、1人を選ぶのは難しい。大谷のインパクトは確かに大きかったが、打つ方では1安打、投手としても投げたのは1イニングだけだ。よって、私は個人ではなく、“日本の層の厚さ”をMVPに選びたい。今大会の侍ジャパンは打線、先発ローテーション、ブルペンのいずれにも穴がなかった。

ナイチンゲール記者 栗山監督だ。アメリカ打線が慣れる前に思い切って投手を交代させ、誰にも2度対戦させなかった戦術は見事としか言いようがない。監督がMVPだと言い切れる稀有なゲームだった。

モンテス記者 村上宗隆(ヤクルト)、岡本のホームランも大きかったが、やはり大谷をMVPに選ぶべきではないかと思う。巨大なプレッシャーがのしかかる9回にリリーフとして登板し、昨シーズンの首位打者ジェフ・マクニール(メッツ)、2018年のMVPベッツ、そして超が付くスーパースターのトラウトを迎えながら、見事に1点のリードを守り切った。

 たった1回だが、今大会で最も重要なイニングを投げ切ったことには計り知れない価値がある。まるでリトルリーグの選手のように打ち、走り、ブルペンで投球の準備をし、最後は抑えまで務めてしまう大谷のような選手は、地球上のどこにもいない。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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