日本代表と国内大会に共倒れの危機 解消されないバドミントンの「日程問題」

平野貴也

再春館・池田監督は「若手を起用して育成したいが、勝たなければ……」

女子ダブルス世界ランク2位の志田(左)/松山もリーグの存在が育てた選手 【筆者撮影】

 日本の主力選手の立場だけを考えれば、今の国内リーグは負担にほかならない。しかし、リーグが不要なのかと言えば、違う。再春館製薬所の池田雄一監督は「勝たなければいけないので起用が難しいけど(相手が格上でも)勝たなければいけないプレッシャーの中での試合は、若手選手を大きく成長させてくれる。(最終順位決定戦がトーナメントでなく)4チームのリーグ戦で取得マッチ、ゲーム率の争いにもなる形式だったら、もっと若手を起用できたし、すべての試合に緊張感が出て面白かったと思う」と、次世代の育成の場として有益なリーグだという見解を示した。

 女子ダブルス世界ランク2位の志田千陽/松山奈未(再春館製薬所)も、先輩ペアの移籍によって突如エースペアとなったプレッシャーの中で成長してきた背景がある。女子ダブルスで世界選手権2連覇の実績を持つ永原和可那(北都銀行)も「自分たちは今、1年間、国際大会を回っているけど、日本代表に入っていない選手には、国内で試合経験を積める場があればいいと思う」と代表入り前の自身を含め、多くの国内選手にとって重要な場であることを強調した。

選手頼みの「リーグの価値」は要改善点

男子準優勝のジェイテクトは、若手の野田悠斗/相澤桃李(手前)らが激闘で会場を沸かせた。代表の知名度に頼らず、現場にある価値を伝えていけるかがリーグ成功の鍵か 【筆者撮影】

 ただ、急に若手主体のリーグに切り替えるのは、難しい。チームを持つ会社やスポンサーが成績を重視する以上、代表選手を起用しないという選択はない。また、優勝したトナミ運輸や再春館製薬所は、選手の多くが日本代表。代表不在が前提では、リーグ戦を戦い切れない。2022年度のS/Jリーグ1部は、22年11月上旬から3カ月間の開催で1チーム最大7試合だが、それでも日本代表が不在で試合を迎える日があった。トナミ運輸の荒木純監督は「リーグの期間を2倍の6カ月に伸ばしてもいいと思う。団体戦は、全員が揃わないと盛り上がらない。お客さんにも来てもらえないし、ファンサービスもできない」と話した。リーグの価値を保つためにも代表選手が出られる日程調整を優先すべきという意見だ。

 しかし、今後、奥原や奈良岡のようにリーグに出ない主力選手が増えた場合、選手のバリューに頼ってファンの関心を得ることは難しくなる面もある。北都銀行の佐々木監督は、各会社の業態や求めるビジョンも違うため一概には言えないと断った上で「日本代表がいないチーム同士のカードなどをどう盛り上げていくのか、危惧している。私がオーナーなら、今の大会の露出度で、選手10人、スタッフ4人程度を抱えるメリットがあるのか考える。見せ方を考えないと、選手もS/Jリーグに出場したい気持ちにならない」と指摘した。

 リーグそのものに価値がなければ、選手も出ず、ファンの関心も薄れ、企業も離れる。過去には大企業の名門チームが廃部になった。今季は、リーグのメインスポンサーも不在。不況が続く中、チームやリーグの支援者を確保し続けられるかは、業界全体の死活問題だ。

日本代表の負傷者続出問題に通じる課題

笑顔でサインに応じる日本代表の福島由紀。選手、チーム、ファンのいずれにとっても好ましいリーグの在り方が問われる 【筆者撮影】

 過密化する国際大会と、旧態依然の国内大会。日本代表選手が板挟みで酷使される状況が続けば、日本代表と国内大会が共倒れになる危険もある。22年は、世界選手権でも、全日本総合選手権でも代表選手の負傷欠場が相次いだ。メダル量産を期待された東京五輪で銅1個と惨敗し、24年パリ五輪での飛躍を狙っている日本代表だが、コンディションが整わず、結果が出なければ、選手のバリューを高めることもできない。

 2018年にはリーグにプレーオフを設け、短期決戦で演出を凝らして注目度を高める工夫が行われたが、1回限りで継続による改善案の抽出もされていない。代表選手の酷使を避けながらリーグを盛り上げたい気持ちは、皆に共通している。日本バドミントン界は、協会の不祥事隠ぺいや強化費削減等の問題で揺れている最中だが、板挟み解決の方向性を示すリーダーシップが求められる。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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