連載:愛されて、勝つ 川崎フロンターレ「365日まちクラブ」の作り方

フロンターレの初タイトルが川崎にもたらした経済効果より大事なもの

原田大輔

福田市長は2017年の優勝パレードにも参加した 【(C)川崎フロンターレ】

 リーグ百年構想にある「スポーツで、もっと、幸せな国へ。」のスローガンのもと、川崎フロンターレは、川崎の地で活動を続けてきた。福田市長は「フロンターレは地域密着という言葉を体現してきたクラブだと思います」と話してくれた。

 川崎市長として三期目を迎え、長く川崎フロンターレの後援会会長を務めていることから、今やすっかり川崎フロンターレのサポーターの一人だと公言している。

「個人的にも何度も試合を見に行くようになり、のめりこみました」
 一方で、川崎市長としての立場から、長らく無冠だったチームがタイトルを獲ったことによる影響について聞くと、「大きいです」と即答した。

 川崎フロンターレが日本一になったことで、周囲への知名度アップも含めて、川崎市には多くの効果がもたらされた。そのうえで、スポーツによる地方創生の在り方について尋ねると、福田市長は学生時代を過ごしたアメリカを例に挙げて、考えを教えてくれた。

「アメリカでは、野球にしても、バスケットにしても、アメリカンフットボールにしても、地元にあるチームのことを『 MY TEAM 』や『 OUR TEAM 』と表現します。要するに自分たちのチームということなのですが、それが地域に住む人たちの誇りになっています。そのため、お酒を飲む席をはじめ、日常生活のいたるところでチームの話が聞こえてきました。そのチームが好きな人同士で仲間意識が生まれ、まちのことも好きになり、関わる人のことも好きになっていく。私自身も、フロンターレの応援を通じて輪が広がっているように、フロンターレの存在によって、まちの人たちにシビックプライドが醸成されているように感じています。今では、市民にとっても、川崎のまちに『フロンターレという強いチームがあるのはいいよね』という誇りになっています。フロンターレがタイトルを獲ったことで、もちろん経済効果もあったとは思いますが、実際の効果は目に見える数字だけではありませんでした」

タイトルが変えた市民の「受け止め方」

 名実ともに日本一のサッカークラブになったことで、川崎市としてもまちづくりのパートナーとして、川崎フロンターレを堂々とコミットすることができる。そういう意味では、やはり人気だけではなく、結果=タイトルは重要だったと言えるだろう。それ以上に、福田市長が言うように、タイトルを獲ったことで川崎フロンターレがシビックプライドの象徴になったことのほうがはるかに意味があった。

「フロンターレが優勝したことで、間違いなく私の心も豊かになっていますから」

 手を取り合うところは取り合い、行政とは異なる方向でも川崎を幸せに、豊かにしていくアプローチをする。川崎フロンターレが企業と企業をマッチングさせ、さらに発展させていっているように、川崎市にとってもクラブが担っている役割は大きい。

 川崎市は、市のさまざまなスポーツ事業・関連事業を「スポーツのまち・かわさき」を形成する事業として総合的・体系的に位置づけた「スポーツ推進計画」を2012年に策定しており、その基本理念には、こう記されている。

「川崎でスポーツを、スポーツで川崎を、もっと楽しく」

「私自身も、タイトルを獲得する前と、タイトルを獲ったあとでは市民の受け取り方が全然違うという印象を持っています。まず、空気感が違います。忘れられないのが、2017年にJ1リーグで初優勝したときのことです。優勝パレードを川崎市庁舎からスタートしたのですが、川崎駅周辺にあれだけの人が集まる光景を見たことはありませんでした。私自身も初めて見た光景だったので、その影響力や存在感への受け止め方も変わりましたし、タイトルを獲ったことで、名実ともに日本屈指のクラブになってくれたと感じています。地道に、着実に、川崎フロンターレがやってきたことが昇華する瞬間に、私自身も立ち会うことができました。おそらくですが、そうした地道な活動なくしてタイトルを獲っていたとしたら、これだけの熱は生まれなかったのではないかとすら思います。景色が変わるとは、こういうことを言うのかと、膝を叩きたくなりました」

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著者プロフィール

1977年、東京都生まれ。『ワールドサッカーグラフィック』の編集長を務めた後、2008年に独立。編集プロダクション「SCエディトリアル」を立ち上げ、書籍・雑誌の編集・執筆を行っている。ぴあ刊行の『FOOTBALL PEOPLE』シリーズやTAC出版刊行の『ワールドカップ観戦ガイド完全版』などを監修。Jリーグの取材も精力的に行っており、各クラブのオフィシャルメディアをはじめ、さまざまな媒体に記事を寄稿している。

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