23年J1・J2「補強・戦力」を徹底分析!

本命視される清水もJ1昇格プレーオフ圏内止まり? 3人のエキスパートによるJ2展望座談会

飯尾篤史

東京Vは佐藤凌我の穴を埋められるか

エースの佐藤が福岡へ流出した東京Vだが、マリオや山田など未知数ながらポテンシャルを秘めたアタッカーを補填している 【Photo by Getty Images】

──Aクラスに名前が挙がっているのは、あとは水戸(昨季13位)、V・ファーレン長崎(11位)、東京ヴェルディ(9位)ですね。まず、唯一佐藤さんが推している長崎から見ていきましょうか。

●Bクラス予想(※並び順は北から)
佐藤:山形、いわき、千葉、東京V、甲府、金沢、磐田、大分

郡司:秋田、いわき、栃木、千葉、東京V、甲府、岡山、長崎

土屋:秋田、水戸、千葉、町田、甲府、徳島、長崎、熊本


佐藤 昨シーズンの後半戦から、ブラジルで実績のあるファビオ・カリーレ監督が指揮を執り、守備的なサッカーからポゼッションサッカーへのドラスティックな変革が行われました。やはり選手たちには戸惑いがあって、なかなか内容の向上に苦労しているようでしたが、2年目もそのスタイルを貫くようです。カリーレ監督が必要とする戦力がそろい、上手くチーム作りが進んでいるという話も聞いています。

 実際、戦力的には他を圧倒する厚みがありますし、昨年からの蓄積があるポジションサッカーが機能すれば、十分Aクラスに入れるでしょう。ただ、先ほど土屋さんから「J2のブラジル人監督は厳しい」という話を聞いて、一気に自信がなくなってしまいました(笑)。

郡司 言葉を選ばずに言えば、カリーレ監督にはランコ・ポポヴィッチさん(前町田監督)と同じ匂いがする“愚将感”があるんです(笑)。リソースはあるだけに、最低限の勝ち点は拾えるのかなと思いますが、長崎のAクラス入りはちょっと想像できないですね。

土屋 僕も長崎はBクラスです。昨シーズンの戦いを見ていても、カリーレ監督が現代的にアップデートされた戦術やスタイルを持っているようには、正直思えなかった。J1クラスの選手たちを活かし切れていませんでしたからね。それに守備陣が総入れ替えになったことも、不安要素の1つです。

──東京Vも評価が分かれましたね。土屋さん以外はBクラス評価です。

郡司 去年は6連勝フィニッシュでトップ10内に入りましたが、それは城福浩監督の“途中就任ブースト”と、プレーオフに行けるかもしれないという期待感が選手の背中を押した部分の両方が、良い方向に作用した結果だと思います。プレー強度を追求したり、補正するサッカーって、僕はあんまり長続きしないと思っていて、そちら側に大きく振りすぎた時には、一時的にボール保持の側面を取り入れることも大事だと思っています。ただ、城福監督にその引き出しがあるかとなると、かなり疑問なんですね。

佐藤 城福さんが監督になってから、それまでのヴェルディらしいパスサッカーからフィジカルゴリゴリ系に変わって、対戦する側としては戸惑いもあったし、すごく難しい相手だったなという印象があります。今シーズンに向けても、城福サッカーに適した人材を補強していますが、ただそれでも、去年からの大きなプラスアルファがあるようには感じない。なにより前線から佐藤凌我(→福岡)と染野唯月(→鹿島)が抜けた穴は大きいような気がします。僕の中ではAクラスを望めるBクラスという評価ですね。

土屋 僕がヴェルディをAクラスに予想したのは、やっぱり昨シーズン終盤の強かったイメージがすごくあるのと、未知数だけれど大きなポテンシャルを秘めた選手がたくさんいるからなんです。ローダJC時代にオランダ・リーグ2部で24得点を挙げたドイツ人ストライカーのマリオ・エンゲルス(←スパルタ)はもちろん、関西大学リーグで15得点の山田剛綺(←関西学院大)、ロメル・ルカクをイメージさせる大型FW佐川洸介(←東京国際大)という2人の大卒ルーキーも非常に楽しみな存在ですね。

 佐藤凌我や山下諒也(現横浜FC)もそうでしたが、ここ最近のヴェルディでは大卒ルーキーが入ってきてすぐに活躍する流れがあって、また谷口栄斗や深澤大輝みたいに、大学経由で戻ってきたアカデミー出身者の台頭も目を引きます。これも江尻篤彦強化部長の目利きのおかげなんでしょうね。あとは中盤の森田晃樹が残留したことも、めちゃくちゃ大きいと思いますよ。

最も評価が分かれた水戸は開幕戦で……

評価が大きく分かれた水戸だが、守護神・山口も残留し、コーチから昇格した濱崎監督のもとで継続性を保てるのはプラス材料だ 【(C)J.LEAGUE】

──なるほど。では最後に水戸ですが、ここも佐藤さんがAクラス、土屋さんがBクラス、そして郡司さんにいたってはCクラスと評価が分かれました。

土屋 レギュラーの大半が残り、過去2年間ヘッドコーチを務めた濱崎さんが監督に昇格したことで、継続性を持って新シーズンに臨める。そこに武田英寿(←大宮)、小原基樹(←サンフレッチェ広島)というJ1クラスのアタッカーが加わりましたし、J2屈指のGK山口瑠伊の残留も心強い材料です。注目は、ユースから上がってきた内田優晟。去年の茨城県1部リーグで34得点というとんでもない18歳のストライカーで、唐山翔自あたりもかなり刺激を受けそうですよ。

郡司 最前線での起点作りと得点力の計算が立つ木下康介(→京都)の退団はかなり大きな痛手。僕もスタートがハマれば大丈夫だろうとは思うんですが、そこで躓いたら、ひょっとすると下位に沈む危険性もありうるという意味でのCクラス評価です。佐藤さん、すみません、これで勘弁してください(苦笑)。

佐藤 まあ、仕方ないです(笑)。ただ、土屋さんが言ってくれたように、濱崎さんは2年間コーチをやった上での監督就任で、継続性のあるチーム作りという観点では、理想的な形で監督交代ができましたよね。去年の主力がほぼ残り、足りないポジションに的確な補強もできたので、チームの総合力はかなり上がったと見ています。

 最初に言ったように、今シーズンは5人交代制がポイントになると思っているんですが、そこに関してもかなり手応えがあります。本当に2チーム分を作れるくらいメンバーがそろっていますから、いろんな組み合わせを試しながら戦える点も、今シーズンの水戸の大きな強みになるはずです。

──さて、こうして上位陣を見てきましたが、本命は降格組の清水あたりになるんでしょうか?

郡司 いや、仮に順位予想をするにしても、清水の自動昇格はちょっと難しいかな。リソースはあるので、プレーオフ圏内は堅いでしょうが。

土屋 僕は磐田と仙台が、頭ひとつ抜けている印象ですね。清水はやはり、ゼ・リカルド監督の采配次第。タレントの質は間違いありませんし、さらに大学経由で戻ってきた齊藤聖七(←流通経済大)、監物拓歩(←早稲田大)といったアカデミー出身者が活躍すれば、サポーターも含めてチーム全体として盛り上がっていく可能性もあります。

佐藤 昇格争いの中心は清水だと思いますが、だからこそ、どこも入念に対策を練ってくるでしょうし、意外と苦しむかもしれません。まずは開幕戦で当たる水戸が、アッと言わせてみせますよ(笑)。

※後編に続く


(企画・編集/YOJI-GEN)

佐藤拓也(さとう・たくや)

2003年、日本ジャーナリスト専門学校卒業とともに横浜FCのオフィシャルライターに就任。04年秋、サッカー専門新聞『EL GOLAZO』創刊に携わり、フリーライターへ転身。その後、サッカー専門誌を中心に寄稿。04年から水戸ホーリーホックを追い続け、12年に有料webサイト『デイリーホーリーホック』を立ち上げ、メインライターを務める。オフィシャル刊行物の制作にも携わる。

郡司聡(ぐんじ・さとし)

編集者・ライター。広告代理店、編集プロダクション、サッカー専門新聞『EL GOLAZO』編集部を経て、フリーに。定点観測チームである浦和レッズとFC町田ゼルビアを中心に取材し、『EL GOLAZO』や『サッカーダイジェスト』などに寄稿。町田を中心としたWebマガジン『ゼルビアTimes』の編集長を務める。著書に『不屈のゼルビア』(スクワッド)。

土屋雅史(つちや・まさし)

群馬県出身。高崎高3年時にインターハイでベスト8に入り、大会優秀選手に選出される。2003年に株式会社ジェイ・スポーツへ入社。サッカー情報番組『Foot!』やJリーグ中継のディレクター、プロデューサーを務めた。当時の年間観戦試合数は現場、TV中継を含めて1000試合に迫ることもあったという。21年にジェイ・スポーツを退社し、フリーに。現在もJリーグや高校サッカーを中心に、精力的に取材活動を続けている。

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著者プロフィール

東京都生まれ。明治大学を卒業後、編集プロダクションを経て、日本スポーツ企画出版社に入社し、「週刊サッカーダイジェスト」編集部に配属。2012年からフリーランスに転身し、国内外のサッカーシーンを取材する。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』(ソル・メディア)、『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』(講談社)、構成として岡崎慎司『未到 奇跡の一年』(KKベストセラーズ)などがある。

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