23年J1・J2「補強・戦力」を徹底分析!

2強に迫るのは浦和、広島、FC東京か? キャンプに密着した識者3人によるJ1展望座談会

飯尾篤史

浦和は「1年目だけれど1年目じゃない」

──みなさんがそろってAクラスに入れているサンフレッチェ広島(昨季3位)と浦和レッズ(昨季9位)はどうでしょう? 最初に浦和ですが、河治さんはどういった点を評価されたんですか?

河治 まず、ポーランド人のマチェイ・スコルジャ監督が、タイトルを知っている男だというのがいいですね。沖縄キャンプを見ましたが、伝える内容がとてもシンプルで、選手も分かりやすいと思うんです。基本はハイプレスで、ボールを奪ったらできるだけ早く攻め切る、それができなければボールを握って相手を揺さぶる、といった具合に優先順位がきちんと整理されていますからね。

 そんな新監督の指導を受けて、既存の選手たちの意識も変化していますが、なかでも楽しみなのが、小泉佳穂ですね。彼はスコルジャ監督が求めるような、自分からどんどん仕掛けてボックス内に入っていくようなタイプのトップ下ではありませんが、キャンプを通じて、目の色を変えてそうしたプレーに取り組んでいました。江坂任(→蔚山現代)がいなくなって、チャンスを掴み取るという気持ちがより前面に出てきている。

青山 スコルジャ監督は、前任のリカルド・ロドリゲス監督のサッカーをちゃんと理解した上で、このチームの可能性を考えていますよね。一般的に監督が代わると、チームは一度リセットされてしまいがちで、前監督のサッカーを分析し、そのベースをもとに新たなチームを作り上げるのは、あんまり聞いたことがない。そういう意味でも、きちんと積み上げている印象があるし、加えて河治さんが言うように、勝ち方、タイトルの獲り方を知っている監督が来たっていうのは、すごく大きいなって。

 優勝するための1つの条件として、僕は「立ち戻れるベース」をクラブとして持っているかどうかってことを、すごく考えるんですね。だから、これまでのベースを引き継いで戦えるという意味で言うと、今シーズンのレッズは、スコルジャ体制1年目だけれど1年目じゃないという見方を、僕はしてもいいんじゃないかなと思うんです。DAZNで一緒に沖縄キャンプ取材に行った浦和OBの槙野智章さんも「今シーズンは期待できる」って話していましたよ。

──コンサドーレ札幌から復帰した興梠慎三も、調子が良さそうでしたよね。

青山 本人も、体のキレがここ数年で一番いいって話していましたよ。面白い人だし、若手にも積極的に絡んでいますよね。

池田 もう青山さんが言ってくれたことがすべてですね(笑)。「1年目だけれど1年目じゃない」っていうのは、本当にそうで。スコルジャ監督はすごくリアリストで、とにかくいいものは全部残すくらいの勢いでやっている。大きな変化は感じないけれど、逆にそこがメリットになりそうな気がしています。

 あとは、僕が言っている「クラブ力」の中にはコーチングスタッフも含まれていて、パッと見の印象ですが、浦和はJリーグでも一番コーチの数が多いように見えます。今はサポートの時代で、コーチの数は多ければ多いほどいいくらい。ヨーロッパのクラブチームを見ても、とんでもない人数がいますからね。ビッグクラブだと、例えば分析担当だけで6人とかは当たり前になっている。その意味で、浦和はそういったサポートスタッフが非常に充実しているなっていう印象を受けますね。

──不安材料はないですか?

池田 ブライアン・リンセンが今年はかなりやってくれそうで、他の既存の外国籍選手も含めて、きちんと彼ら助っ人がキャンプに間に合ったというのは大きいでしょうね。逆に言うと、今年獲得したCBのマリウス・ホイブラーテン(←ボーデ・グリムト)の合流が2月になったのは、1つの不安要素です。浦和の場合、例年こうした移籍関連の動きが遅いのは、クラブとしての課題でしょうね。

──広島に関しては、3人の中でも河治さんが一番熱く推しているようですね。

河治 ほぼプラス要素しか見当たらないんです(笑)。チームの骨格となる主力が残った上に、満田誠や川村拓夢ら若手の成長も期待できるし、さらに志知孝明(←アビスパ福岡)っていう本当に広島のスタイルに合いそうなサイドの選手や、ルーキーですがいきなりレギュラーになってもおかしくないCBの山﨑大地(←順天堂大)も獲りましたから。

 あとはミヒャエル・スキッベ監督の高い要求に選手も応えて、今の広島はトランジションの部分が川崎やF・マリノスに比べても速いんですね。攻守の切り替え時に、どこにいて、どこで受けるべきかがすごく整理されているからタイムラグがない。佐々木翔のようなベテランも含めて、スキッベさんのもとで成長したいという意欲が伝わってくるし、オフの上積みを考えれば、F・マリノス、川崎との立ち位置を逆転するのは十分に可能だと思っています。

青山 スキッベさんは昨シーズン、コロナ禍で来日が遅れたにもかかわらず、これだけのチームを作ってきましたからね。トルコでのキャンプを通じて、さらにそのサッカーのクオリティが上がっているのだとすれば、今年も安定して上位には入ってくるでしょうね。

 ただ心配なのは、選手層がそんなに厚くないということ。もし、主力に怪我などのアクシデントがあれば、厳しくなるかもしれません。とはいえ、チームの年齢構成もいいし、大型補強をせずに積み上げてきたという意味でも、非常に好感が持てます。来年は新スタジアムもできますし、そこに向けて今年もうワンステップをしようというクラブとしてのビジョンも明確ですよね。

河治 棚田遼っていうユース出身の19歳のアタッカーも、すごくいいですよ。去年の満田みたいにブレイクする可能性があるので、⁠そこにも注目してください。

池田 僕が思うに、Jリーグのクラブが強くなる一番の方法って、トルコでキャンプすることなんですよ、マジで(笑)。イビチャ・オシム監督時代のジェフユナイテッド市原(現千葉)、曺貴裁監督時代の湘南ベルマーレがそうでしたけれど、ヨーロッパではトルコでキャンプをするのが当たり前。なぜかというと、そこでキャンプをしているチームがたくさんあって、とにかく練習試合が多く組めるからなんです。僕は以前から「Jクラブはトルコに行け」ってずっと言っているんですけれど、トルコでヨーロッパ勢とバチバチの試合ができるのは相当な刺激だし、その経験が間違いなくこの1年の成長にもつながってくる。

 昨シーズンの戦いぶりを見ていても、スキッベさんの引き出しはまだまだ山ほどあるはずで、今シーズンの広島は、僕が一番期待するチームでもありますね。

FC東京は完成度アップが仇に!?

補強の成功と若手の台頭で、FC東京の戦力値は確実にアップしている。懸念材料はプロ2年目にして主軸を担う松木の去就か 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

──次はFC東京(昨季6位)にいきましょう。まずタツさんから、Aクラスに入れた理由を教えてください。

池田 今回の順位予想で重要な判断基準は、「継続性」だと思うんです。FC東京の場合も、就任2年目のアルベル監督の意向に沿ったチーム編成をしていて、仲川、小泉慶(←サガン鳥栖)といった新戦力は、まさにアルベルさんが必要としていたタイプ。特に前プレ(前からのプレス)がハンパなくて、2度追い、3度追いも当たり前という小泉のスプリント力を手に入れられたことは、非常に大きかったと思います。

 それにF・マリノスで優勝を経験した仲川、鹿島アントラーズに在籍していた小泉には勝者のメンタリティが備わっていて、勝ちにこだわる姿勢を、彼らがチームに注入してくれてもいますよね。

 楽しみなのが18歳の3人、俵積田晃太、熊田直紀、荒井悠汰ですね。練習試合から「開幕スタメンしか考えていない」くらいのオラオラ感(笑)。彼ら18歳のルーキーがこれだけのアピールをすれば、主力クラスだって刺激を受けますからね。まさに好循環が生まれていますよ。もちろんこれには、昨シーズンに高卒ルーキーで開幕スタメンを飾った松木玖生の影響が、間違いなくあるでしょう。こうした若手の突き上げによって活性化されたFC東京は、すごくいいチームになっていると思います。

青山 インサイドハーフに松木、小泉、安部柊斗といった強度の高い選手を置いて、さらに前線に仲川、ディエゴ・オリヴェイラ、アダイウトンを並べた布陣は、かなり破壊力がありそうです。やはり点が取れないと優勝争いには絡めませんから、そこは期待しています。特に松木が、高校時代みたいにどんどんゴール前に飛び出して行けるようになれば、彼自身も一皮むけるでしょうし、チームも違った景色が見られるんじゃないかと思っています。

池田 1つだけ懸念点を挙げると、僕はアンカーのところだと思う。誰をメインにして、誰がここでボールを捌くかというのは、練習試合でもなかなか見えてこなかった。昨年、このポジションにコンバートされた東慶悟も頑張っていますが、捌くタイプではないですからね。今シーズンも塚川孝輝などインサイドハーフの選手が下りてきて“偽アンカー”のように振る舞うことで、騙し騙しやっていくことになるかもしれません。

──河治さんは唯一、FC東京をAクラスから外していますね。

河治 僕はアルベル監督のサッカーが浸透することで、逆に順位は落ちるのかなと考えているんです。昨シーズンのチームはまだ完成度が高くなくて、ある種リアリストに徹することができた。もっとつないでくるのかと思いきや、カウンターでひっくり返して勝ち点を拾うケースが結構あったんです。それがベースアップをしたことで、対策もされやすくなるし、かといってF・マリノスや川崎レベルのパス&ムーブができるかと言えば、先ほども出たようなアンカー問題もあって、なかなかそこまでにはいかない。

 もちろん戦力値は去年よりもアップしているんですが、パフォーマンスは上がるけれど結果がついてこないというパターンに陥る危険性が、結構あるんじゃないかと見ています。あとは松木が、シーズンを通してチームに留まるのかどうかという心配もありますね。

池田 確かに、夏に海外移籍をしてしまう可能性はありますよね。ただ僕はそれ以上に、松木が18歳トリオに与える影響力や、仲川や小泉がもたらす勝者のメンタリティといったプラスの要素の方が大きいと思っています。

──青山さんと河治さんがAクラスに入れているセレッソ大阪(昨季5位)はどうでしょう? 香川真司(←シント=トロイデン)も戻ってきましたけれど。

青山 完全に2チーム分の選手層ができましたよね。昨シーズン、途中出場から流れを変えていたジェアン・パトリッキ(→ヴィッセル神戸)の移籍は不安材料だったんですけれど、それを補って余りある陣容が整いましたし、すべてのタイトルを獲りに行くんじゃないかって思えるくらいの印象さえ受けます。

 ただ、香川の加入については、正直、彼の使い方が見えてこない。今のチームは攻守両面ですごくハードワークを求められますからね。はたしてそこに、香川がハマるのかと。逆に言えば、小菊昭雄監督が香川をどうフィットさせるかが、今シーズンのセレッソを左右する大きなポイントになるような気がしています。

河治 香川は運動量や強度というより、ポジショニングでコースを消していく守備のスタイルで、それが現在のセレッソのスタイルと合うのかっていう疑問は、僕も感じています。ただ、それでも攻撃のクオリティは上がるでしょうし、チーム全体の守備のベースは高いレベルで整備されていて、なかなか崩れることはないので、僕はマイナス面よりもプラス面の方が上回ると見ています。

池田 僕はBクラスと予想しましたけれど、選手層に関してはAクラス。でも気になるのは、新加入のレオ・セアラがどれだけゴールを決められるのか、というところですね。F・マリノスでの去年のプレーを見ていても、今シーズンのセレッソで爆発するとはちょっと想像できない。

 あと、去年のセレッソは、広島みたいに前から来るチームに弱くて、その問題が今シーズンの後ろのメンバーを見るかぎり、すぐには解決しないんじゃないかとも思うんです。もちろんこれだけの選手層だから、なんらかのタイトルに絡んでもおかしくはないんですが、自信をもってAクラスに推せない材料もあるんです。

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著者プロフィール

東京都生まれ。明治大学を卒業後、編集プロダクションを経て、日本スポーツ企画出版社に入社し、「週刊サッカーダイジェスト」編集部に配属。2012年からフリーランスに転身し、国内外のサッカーシーンを取材する。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』(ソル・メディア)、『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』(講談社)、構成として岡崎慎司『未到 奇跡の一年』(KKベストセラーズ)などがある。

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