23年J1・J2「補強・戦力」を徹底分析!

2強に迫るのは浦和、広島、FC東京か? キャンプに密着した識者3人によるJ1展望座談会

飯尾篤史

鳥栖の一番の魅力は川井監督

キャンプを取材した記者陣が「図抜けて面白かった」と口をそろえるのが、鳥栖の練習。引き出しが豊富な川井監督の就任2年目に注目だ 【Photo by Getty Images】

──Aクラスの最後は、河治さんとタツさんが推す鳥栖(昨季11位)についてです。僕も今シーズンのダークホースになりそうな予感がしているんですが、河治さん、鳥栖をプッシュする理由を教えてください。

河治 一番勢いがありますよね。鳥栖の選手たちに話を聞くと、こちらが水を向けなくても、「日の丸」という言葉が出てくるんですね。それは川井健太監督も同じで、代表クラスの選手を育てることを、指導者を始めた時からずっと思っていて、そうした情熱や想いというのは、自然とチーム全体に伝わっていくんです。だからサポーターにも、鎌田大地(フランクフルト)みたいに鳥栖で活躍して欧州へ旅立っていく選手の背中を押すような空気がある。それによって鳥栖のブランドが上がって、また新しい選手が入ってきてくれればいいっていう考え方なんです。

 今シーズンのチームは、去年までの中心選手が17人くらい残って、新たに15~16人くらいが加わるバランスのいい編成で、しっかりとしたベースの上に、横山歩夢(←松本山雅)を筆頭に、チームに大きなプラスをもたらしうる新しい血が注入されています。先ほど「ネクスト三笘」みたいな話が出ましたけれど、僕はその何人かの候補者の中でも横山は別格の存在だと思っているんです。

──宮代や垣田裕暉(→鹿島)らがレンタルバックして抜けた穴も埋まると?

河治 それを補って余りある補強を実現していますし、ここもFC東京と同じくアカデミーが充実していますからね。竹内諒太郎、坂井駿也といったユース育ちの18歳コンビは、3年半後のワールドカップには自分たちが出ると言っているくらいで、とにかく意欲に溢れている。そういった雰囲気や勢いに僕も引き寄せられて、予定よりも多く鳥栖のキャンプに足を運んでしまいました(笑)。

池田 鳥栖の場合はなんと言っても監督が魅力的ですよね。いろいろなチームのキャンプを見ましたけれど、川井監督と京都の曺貴裁監督の練習が図抜けて面白かった。鳥栖の練習は30分とか40分でスパって終わることもあって、それも今風ですよね。ちなみにデータによると、シーズンの1試合平均スプリントが200を超えたのは、19年のF・マリノスと昨シーズンの鳥栖だけらしいんです。練習が短時間で終わるのも、シーズンを通してパフォーマンスを維持するには、今はこれくらいの強度でやればいいという、データの裏付けがあるからなんです。
 
 今年から強化部門のトップ(スポーツダイレクター)に小林祐三さんが入ったことで、例年に比べて流出する選手も少なく抑えられたし、浦和と同様、スタッフの数も多い。「クラブ力」がかなり高いチームであることが、鳥栖をAクラスに推す理由ですね。

──そんな鳥栖を、青山さんだけがAクラスから外していますね。

青山 これまでの鳥栖は、垣田や宮代みたいな選手を他からレンタルしながらチームのベースを築いてきましたが、自分たちで育てた選手たちを中心にやっていくのはこれからだと思うんです。まだクラブとして成長段階で、近年はアカデミーも各年代で全国制覇をするなど伸びしろは十分にありますが、僕が挙げた上位6チームの一角を崩すまでには至らないんじゃないかと。だからBクラスの上位というのが、僕の見立ててですね。

汗臭さや泥臭さが消えた鹿島

昨季4位の鹿島だが、ジャーナリスト3氏はいずれもBクラスと予想した。植田や昌子の復帰で、かつての強さを取り戻せるか 【Photo by Getty Images】

──ここからはBクラスに移りましょう。まずはみなさんがそろってBクラスに入れた鹿島(昨季4位)について、その理由を伺っていきます。

●Bクラス予想(※並び順は北から)

河治:札幌、鹿島、柏、FC東京、名古屋、G大阪

青山:鹿島、柏、名古屋、G大阪、神戸、鳥栖

池田:札幌、鹿島、名古屋、京都、G大阪、C大阪


池田 今、チーム力とかクラブ力とかが問われる中で、鹿島は強化部の補強ポイントと監督の意向がズレてしまっているような印象を受けますね。岩政大樹監督は「新しい鹿島を作る」と言っているのに、強化部は昔の鹿島の選手を連れてくる。加えて監督の言葉が抽象的で、何をやりたいのかが具体的に見えてもこない。昨シーズン半ばに就任して、リーグ戦11試合で2勝しかできなかったのも、決して偶然ではないと思うんです。

青山 岩政さんはたぶん、新しい鹿島を作るために、昔の鹿島を知っている植田直通(←ニーム)や昌子源(←ガンバ大阪)といった選手たちがベースとして必要だと思ったんじゃないかな。鹿島の強さって、ピッチ上での臨機応変さや個々の対応力にあったわけだけれど、そういった「らしさ」が薄れてきてしまっているから。

 ただ、そこからどんなふうに新しい鹿島を提示していくかっていうと、いわゆるチームビルディングの部分で、上手くハマっていないのかもしれませんね。

池田 鹿島というチームには、「勝利のためならどんなことでもする」っていうカルチャーがあって、選手もサポーターも、とにかく「勝ち点3を奪うこと」にプライオリティを置いてきたんです。そういったアイデンティティ、自分たちの一番良かった部分がなくなってしまったことが、今抱えている大きな問題なんじゃないですか。

河治 確かに、汗臭さとか泥臭さがないですよね。いい意味での汚れ感というか、『魁!!男塾』っぽさが消えて(笑)、すごくきれいにまとまってしまった。

 戦力面で言うと、単純にサイドバック(SB)の守備強度が足りていない。だから、例えば右SBの常本佳吾に何かあったりすると、途端に苦しくなるわけです。かなり前輪駆動型のチームで、さらに昌子が怪我で開幕に間に合わないわけですから、すでに今の段階で黄色信号ですよ。

青山 「鹿島の魂」みたいなものを知っている昌子と植田が、言葉とプレーでどこまで周りを引っ張っていけるか。そこが今シーズンのチームビルディングを左右する大きなポイントになるでしょうね。結局、チームとして立ち戻るベースというものが、今は定まっていないような気がしています。

──同じく3人がそろってBクラスとした名古屋グランパス(昨季8位)は、どう見ていますか?

池田 僕はAクラス入りもあると見ています。去年が厳しかったのは、キャンプ中にクラスターが発生した影響もあると思うんですが、今年は長谷川健太監督も2年目で、まず準備段階でしっかりやれたのは大きいですね。実際、メンバーを見ても日本人選手はほぼ代表クラスじゃないですか。戦力はトップレベルだし、あとはキャスパー・ユンカー(←浦和)がハマるかどうかがポイントになるでしょうが、僕は結構やれるんじゃないかと見ています。

河治 健太さんのサッカーって、良くも悪くも前にスペースができやすいので、ユンカーがやりたい放題になる可能性はすごくあると思いますよ。健太さんはチーム全体として求める強度は高いけれど、個別にはさじ加減ができる監督でもありますから、ユンカーに「灰になるまで走れ」なんてことはきっと言わない(笑)。

池田 練習試合を見て思ったのは、中盤に展開力がないこと。それは懸念材料でもあるんだけれど、いわゆる「行ってこーい!!」って言って、実際に行けるユンカーやマテウス・カストロ、永井謙佑といったストライカーには、逆に合っているかもしれません。

青山 ユンカーに関しては、健太さんも彼に点を取らせるためのサッカーを考えていると思いますよ。周りをハードワークができる選手で固めて、ユンカーには最低限の守備だけしてくれればいいって。そうなれば、カウンターを仕留める決定力はあるので。

 今シーズンはたぶん、中盤に構成力を求めていないんじゃないかって気がします。ボランチを1枚にするか2枚にするか分かりませんが、稲垣祥も高い位置で持ち味を発揮するタイプだし、だからボールを保持して戦うというよりは、ある程度構えて、奪ってから早く攻めるスタイルになると思います。その意味で、ラストパスが出せる和泉竜司(←鹿島)が戻ってきたのは大きいでしょうね。

池田 ただ、今のチームで一番割を食っているのは和泉でしょう。中盤と前線の繋ぎ役ができる気の利いたタイプは彼しかいないから、とにかく中盤を作って、前線にも顔を出してと、あらゆる仕事をやらされているんです。

河治 でも、それが和泉の和泉たるゆえんでもありますよね。いわゆる掃除人になれるのは彼のストロングだし、名古屋のごつごつとしたパーツをつなぎ合わせる接着剤の役目を担ってくれると思いますよ。

池田 完全に、パルマ時代の中田英寿に見えましたね(笑)。ムトゥとアドリアーノがいたチームで、足りないところをすべて埋めてくれて。

青山 確かに。和泉が1年間フル稼働できれば、後ろも安定しているし、名古屋は十分Aクラスに入れると思いますよ。

※後編に続く
(企画・編集/YOJI-GEN)

河治良幸(かわじ・よしゆき)

セガ『WCCF』の開発に携わり、手がけた選手カードは1万枚を超える。創刊にも関わったサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』で現在は日本代表を担当。チーム戦術やプレー分析を得意としており、その対象は海外サッカーから日本の育成年代まで幅広い。「タグマ!」にてWEBマガジン『サッカーの羅針盤』を展開中。

青山知雄(あおやま・ともお)

2001年からJリーグやJクラブの各種オフィシャル案件で編集やライターを歴任。月刊誌『Jリーグサッカーキング』で編集長も務めた。関係各所に太いパイプを持ち、現在はDAZNでコンテンツ制作に従事しながら、Jリーグ、日本代表の取材を継続中。

池田タツ(いけだ・たつ)

株式会社スクワッド、株式会社フロムワンを経て2016年に独立する。スポーツの文字コンテンツの編集、ライティング、生放送番組のプロデュース、制作、司会などをこなし、撮影も行う。湘南ベルマーレの水谷尚人前社長との共著に『たのしめてるか。湘南ベルマーレ フロントの戦い』シリーズがある。

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著者プロフィール

東京都生まれ。明治大学を卒業後、編集プロダクションを経て、日本スポーツ企画出版社に入社し、「週刊サッカーダイジェスト」編集部に配属。2012年からフリーランスに転身し、国内外のサッカーシーンを取材する。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』(ソル・メディア)、『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』(講談社)、構成として岡崎慎司『未到 奇跡の一年』(KKベストセラーズ)などがある。

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