不調を言い訳にしたくない、プロ内定にふさわしいプレーを見せたいと阪田が考えていたことは、想像に難くない。コンディションが上がらないだけでなく、次第にプレーが単調になり、苦しむ場面が増えていた。阪田は当時の状況を「自分はサイドアタッカーだという固定概念で（ポジションを）サイドに張り過ぎてしまって、うまくボールが入って来なかった。相手に警戒もされていて、絶対に（自分の前に）相手がいる状況でもあった」と振り返った。キレ味のあるドリブルでサイドを破る。一つのプレーに固執した結果、相手は守りやすく、成功体験を得にくくなり、プレッシャーがさらに増す悪循環に陥った。

　チームも阪田の状況を考慮。トップ下など中央でのプレー機会を与えて、別の形で貢献する形を探した。阪田が「中央に入ってフリーになるプレーや、自分が（中央からパスを出して）ゲームを作るところもプレーの幅を広げてやってきたので、見てほしい」と話すのは、苦しみの中でもチームとともに成長のきっかけを探し続けた経緯があるからだ。

　阪田は、スピードのあるドリブルでサイドを突破した昨季のイメージが強いが、スピードを上げながらラストパスを狙うことも、ミドルレンジからシュートを狙うこともできる。決して、サイドを破らなければチームに貢献できない選手ではない。今大会では、ゲームメーカーの真田蓮司（3年）が2得点2アシストとフィニッシュワークに関わって活躍中。前線では、空中戦に強いFW豊嶋蓮央（3年）が2得点。豊嶋と前線でツートップを組むFW北村圭司朗（3年）はチャンスメークに関わり、MF清水楓之介（3年）もサイドで鋭い切り返しで相手を翻ろう。右SB石井亜錬（3年）はキック精度とヘディングの強さで好機演出と得点力の両面で活躍を見せている。MF松橋啓太（3年）の強烈なロングスローもあり、攻撃の選択肢は多彩だ。阪田頼みのチームでもない。阪田が派手な活躍を見せなくても、攻撃の質をわずかに上げる貢献ができれば、チームは点を奪える。

　それでも「多彩な攻撃陣の一角」で終わるつもりはなく、エースの矜持は失っていない。相手にロングボールを蹴り込まれて間延びし、連係攻撃を披露できなかった準々決勝の後、阪田は「ロングボールを蹴られて、処理の難しいチームで苦戦した部分があった。そういうときに、自分が得点を取って、チームが楽になるというところが出れば良かったけど、できずに申し訳なかった。もっと落ち着いてプレーできたかなというところもあった。ゴールを取るという気持ちから、ゴール前で力が入った」と反省を口にした。前半に中央からミドルシュート、後半には単独突破でカウンターと時折、能力の高さを垣間見せたが、数字に残る結果は出せなかった。

　大舞台での躍進は、誰もが期待するところ。福重監督は「これが、彼の今後の試練。高校サッカーで内容も結果も残してもらわないと困る。それがイコールに近いくらい東山の結果につながると思う。コンディションは良いと思うので、もう一度、頭をリフレッシュさせて、気持ちの整理をさせてやらせてあげたい」とあえて厳しい評価でエースへの信頼と期待を隠さなかった。

　国立競技場で行われる準決勝で阪田が本領を発揮するかどうかは、一つの見どころとなる。阪田は「高校サッカーで、国立でやるというのは昔からの夢。国立でできることに感謝して日本一という目標に向かって頑張りたい」と意気込んだ。苦しんできたエースは、憧れの地へ溜め込んだ思いをぶつけにいく。