バドミントン桃田、2年ぶり日本一で示した確かな改善点

平野貴也

改善点はレシーブ前のロビング

コート後方へのロビングを使うことで、ネットギリギリこうほうに落とす得意の高精度ショットも効果が大きくなる 【筆者撮影】

 これまでの桃田は、勝ち続けた時期のようには相手の強打をレシーブできなくなったため、相手に強打を決められると「打たれたくない」という思いから、素早く相手の頭を越すロビングか、ネット前に球を落とす2択のプレーになっていた。すると、相手は積極的に前進する戦い方をすればいい。低いロビングには飛びつき、ネット前は落ちる前にはたく。そうすることで、桃田が次の球への反応時間を奪われる。焦って再び低いロブを打てば、前で狙われる展開の繰り返しだ。今大会の準々決勝、初めて対戦した大林拓真(トナミ運輸)は、身体能力に物を言わせたスピードとパワーが武器。まさに、その展開を狙っていた。ところが、大林は桃田の配球で前後左右に揺さぶられ、落下点に入るのが遅れて強打を打ち込めなかった。前に入ろうとすれば飛びつけない高さのロブで頭を越され、強打を打てずにつなぎ球を打てばネット前に落とされ、下から拾わされた。強打を打てないままコートを走らされ、2ゲーム目に入ると、疲労で動きが鈍った。桃田の配球に、高い位置から打ち込まれることを恐れずに繰り出すロビングが加わっていたことが変化だった。西本戦も似たような展開で、明らかに相手の方が体力を削られていた。

 桃田は、夏ごろ、復活に向けてレシーブの改善を課題に掲げていたが、試合後のコメントからは、国内調整の2カ月で戦い方そのものを見直したことがうかがえた。

「以前のような柔らかいディフェンスは、もうできなくなってしまったかなという感覚がある。一つ前のショットでヘアピンを(ネット前に)打って相手を前に寄せて、ロビングで打ちづらい体勢を作るとか、高さを打ち分けてタイミングをずらすとか、試行錯誤した」

「ディフェンス面が、自分の中ですごく充実していた。苦しい展開でも、1回高い球を使って、振り出しに戻してからゆっくりラリーするという展開が1個増えたなという実感があったので、相手のフィジカルを削りながら、自分の戦いに持って行けた」

国際大会で再現し、浮上の試金石とできるか

2年ぶりの国内大会優勝を飾った桃田。国際大会でも笑顔が見たい 【筆者撮影】

 日本バドミントン協会は大会閉幕後に、2023年の日本代表内定選手を発表。今後、ハイレベルな国際大会に派遣されるA代表と、少し下に格付けされる大会を主戦場とするB代表に分けられるが、世界ランクや大会成績の面から、桃田は継続してA代表に選出されると見られる。日本A代表は、23年1月4日から都内で強化合宿を行い、7日に開幕するマレーシアオープンを皮切りに東南アジアで3つの国際大会を連戦する。今大会で見せた変化が国際大会でも通用するか。24年パリ五輪に向けた再浮上の試金石となる。ただ、事故後、20年末の全日本総合で復帰して優勝を飾った後、国際大会で結果が出なかった例もある。

 桃田は「国内の大会で勝てたのはすごく嬉しいけど、また国際大会に出たときにどうなるか、自分の中でまだ明確なイメージができていない」と慎重な姿勢を示した。先を見れば、困難に遭遇する恐怖がちらつく。桃田は、パリ五輪への言及を避けるだけでなく、1月の国際大会参加についても出場の明言を避けるなど、先のことには一切明確な答えを示さなかった。「ちょっと、もう、来年のことは考えられない。今大会は本当に疲れた。何も考えずに年末年始をゆっくり過ごしたい」というコメントこそ本音なのだろう。場内インタビューでファンに「もっともっと強い桃田賢斗を見せていきたい」と話した気持ちを膨らませるために、優勝の喜びを噛み締めて新たな年を迎える。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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