高津臣吾「明るく楽しく、強いチームをつくるために僕が考えてきたこと」

令和初の三冠王・村上宗隆と2021年ブレイク奥川恭伸に、高津監督が求めたもの

高津臣吾

【写真は共同】

 2022年、東京ヤクルトスワローズをセ・リーグ2連覇に導いた高津臣吾監督。令和初の三冠王村上宗隆選手をはじめとする主力の活躍、新たな若手の躍動、さらにベテラン、外国人選手の献身的な姿勢は、高津流マネジメントの賜物といえる。就任から3年、高津監督はどのような考え方のもと、チームの再建を果たしたのか――。2022年シーズン2連覇直後に刊行された高津監督の著書『明るく楽しく、強いチームをつくるために僕が考えてきたこと』(アルファポリス)より、一部を抜粋して紹介する。

(以下、書籍 第2章 「経験」が何よりも人を成長させる 高津流若手のブレイクスルー・マネジメント)

「村上宗隆」という逸材を不動の4番にするために

 この章では、選手たちと接する際に、「監督として」僕が心がけていることを中心に述べていきたいと思う。

 そもそもチームというものは、それぞれ性格も考え方も違うプロフェッショナルたちの集まりである。当然、選手個々に合った接し方をしなければならないが、それはとても難しいことだと、1軍監督就任以来改めて感じている。

 普段の試合では、大体17人の野手がベンチ入りしている。その中でピッチャーを除いた8人がグラウンドでプレーをしていて、残りの9選手は基本的にはベンチに控えている。

 当然、試合に出ている選手とベンチに控えている選手とではモチベーションにも違いが生まれてくる。試合に出ている選手たちは、それぞれ勝利のために頑張っているわけだから、「どうにかしてモチベーションを高めよう」と、監督が特に意識する必要はない。

 だから、意識すべきはベンチにいる選手たちに対してである。
 
 結論から言えば、選手たちのモチベーションを高めるために一番いいのは「適材適所の場面で信頼して送り出すこと」だと思う。つまり、代打であれ、代走であれ、守備固めであれ、「ここぞ!」という場面で、「ここはお前に任せた。お前しかいないんだ」という思いで起用するということだ。

 監督として本当に信用して送り出すこと――

 それはとても大事なことだ。たとえ、たまにしか出場機会がなかったとしても、そこでヒットが打てた、きちんと走れた、きちんと守れたとなると、それはチームにとって本当にありがたいことだ。このように結果を出してくれれば、本人はもちろん、僕としてもとても嬉しい。そういうときは、前章で述べたように、僕自身も率先して喜ぶように意識している。

 僕が監督に就任して以来、「4番打者」という重責を託しているのは村上宗隆だ。

 九州学院高校から、2017年のドラフト1位でスワローズに入団した。プロ1年目となる2018年シーズン、僕は2軍監督だった。

 ひと目見て、逸材だと思った。彼の成長に関して、僕には大きな責任があると感じた。もちろん、球団としても同じ考えだったから、村上は「指定強化選手」に指名された。これは球団の将来を託す大切な選手であり、とにかく実戦によって成長のチャンスを与え、そのプロセスを球団編成や1軍、2軍コーチが定期的にモニタリングしていくことになっている。村上の場合も、「年間何打席以上、経験させるように」と規定されていた。2軍監督としてはその機会をきちんと村上に与える役割があった。

 ご記憶の方もいるかと思うが、こうして経験を積んだルーキーイヤーのシーズン終盤、「1軍の雰囲気を経験するために」という狙いで村上は1軍に初めて昇格した。そして、プロ初打席で初ホームランを放つという離れ業を成し遂げた。

 これには僕も興奮したし、本当に嬉しかった。こうした段階を経て、プロ2年目となる翌2019年は開幕戦からスタメンで全試合出場を果たし、36本塁打を記録する大飛躍の1年となった。

 そして、2020年に僕が軍監督に就任してからは、開幕戦から全ての試合で「4番サード」で村上を起用し続けている。彼の場合は前年に大きく飛躍したものの、この2020年が実質2年目である。この年も開幕からフルイニング出場してホームランを連発していた。本当によく頑張っていたと思う。12球団に12人の4番バッターがいるけれど、「スワローズの4番は村上です」と、胸を張って言えるぐらいの成績は残している。 

 しかし、だからと言って手放しで村上を絶賛するつもりは毛頭なかった。

 なぜなら、彼には自分の発言だったり、立ち居振る舞いだったり、数字以外のことをもっともっと求めていたからだ。成績だけでなく、いろいろなものが求められるのが4番打者だと、僕は考えている。そういう観点から見れば、僕にはまだまだ物足りない。まだまだ「真の4番打者」とは言えない。

 とはいえ、プロに入ってから始めたサードやファーストの守備でも本当に一生懸命頑張っている姿が見えるし、実際にうまくなっている。守備でチームを引っ張る、打撃でチームに勇気を与えようと心がけているという姿は立派だと思う。

 僕が「4番打者」に求めるものは、言葉で説明するのは難しいけれど、日頃の練習態度であったり、試合に取り組む姿であったり、チームメイトへの気遣いであったり、あらゆる全てのことなのだ。

 つまり、「村上を通じて、周りの人たちに好影響を与えることができる存在になってほしい」という思いである。読者の中には、このとき20歳になったばかりの村上に「そこまで多くを求めるのは酷だ」という意見もあるかもしれない。しかし、「真の4番打者」になってほしいからこそ、求めるものは多いのだ。

 村上は、ベンチではいつも僕の前に座っている。これは僕の指示ではない。

 ベンチ内では一番若いから、結果的に空いている僕の前に座っているだけだと思うが、試合中はいつも僕の目の前だ。

 だから、実は彼に注文をつけたくなることも多い。もちろん、いつも注文をつけるわけではないけれど、注文が「10」くらい溜まったら言うようにしている。「1」や「2」の時点ではまだ言わない。

 これぞと見込んだ若い逸材には、気になる点があるたびに細々言うよりは、「ここぞ」という大事な場面で伝えた方が、さらに大きく成長させるためにいいだろうと、僕は考えている。

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著者プロフィール

1968年広島県生まれ。広島工業高校卒業後、亜細亜大学に進学。90年ドラフト3位でスワローズに入団。93年ストッパーに転向し、20セーブを挙げチームの日本一に貢献。その後、4度の最優秀救援投手に輝く。2004年シカゴ・ホワイトソックスへ移籍、クローザーを務める。開幕から24試合連続無失点を続け、「ミスターゼロ」のニックネームでファンを熱狂させた。日本プロ野球、メジャーリーグ、韓国プロ野球、台湾プロ野球を経験した初の日本人選手。14年スワローズ一軍投手コーチに就任。15年セ・リーグ優勝。17年に2軍監督に就任、2020年より東京ヤクルトスワローズ監督。

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