Bリーグ2022-23開幕特集

「格差」の縮まった混戦のB2 “黒船”長崎ヴェルカと昨季のプレーオフ進出チームが昇格争いの軸に

大島和人

“黒船”長崎の参戦で激戦が予想される西地区

B3を圧倒的な戦績で制した長崎。B2でどんな戦い方を見せてくれるか注目だ 【(C)n_velca】

 西は東以上の激戦区だ。新規参入ながら既存の秩序を揺るがす“黒船”となりそうなのが長崎ヴェルカ。昨季は結成初年度ながらB3を45勝3敗という圧倒的な戦績で制し、天皇杯ではB1のSR渋谷を下してみせた。9月には西九州新幹線も開業したが、長崎駅前ではオーナー企業のジャパネットたかたを中心とした「長崎スタジアムシティプロジェクト」が進行中。Jリーグ用のスタジアム、アリーナが新設される。クラブは練習施設やスタッフなどコート外への投資をまず手掛けて、B1以上の環境を既に整備している。

 長崎は個の能力で解決するアプローチでなく、育成を武器にしてB3を独走した。松本健児リオン、近藤崚太は直近のシーズンは“無所属”だった無名選手だが、長崎ではそれぞれが主力として輝いた。ジェフ・ギブスも40歳を過ぎた大ベテランながら宇都宮時代よりプレーの幅を広げ、昨季は3ポイントシュートを多投して悪くない確率で決めていた。

 今季の長崎はB3で育った選手たちをおおよそ残してB2にチャレンジする。新戦力の目玉はB1川崎の主力だったパブロ・アギラール。203センチ・99キロとインサイドにしては小柄だが、機動力と守備に優れたチームプレーヤーで、長い腕を生かしてスティールを量産していた選手だ。長崎のスタイルには明らかにフィットする。

 守備のインテンシティが高く、フルコートでプレッシャーをかけ、攻撃のテンポも極端な程に高い。長崎は初めてバスケの試合に足を運んだお客さんが「面白い」と思えるプレーをしてくれるはずだ。
 そんな長崎を迎え撃つ昨季のプレーオフ進出チームが香川、熊本、佐賀だ。

 昨季の香川は、クォーターファイナル第3戦までもつれ込む激闘の末に仙台に敗れた。エースのテレンス・ウッドベリーが熊本に移籍したものの、佐賀からレベル的に同等のマイルズ・ヘソンを獲得。石川裕一HCも含めて、昨年並みの陣容を維持している。

 香川を見たことのないファンにおすすめしたい一押しプレーヤーがPG兒玉貴通。166センチの身長は富樫勇樹よりさらに小柄だが、オフェンス力は圧巻で、彼なくして香川のバスケは成立しない。

 佐賀はヘソンが香川に移籍したものの、宇都宮のB1制覇に貢献したチェイス・フィーラーを迎え入れている。アウトサイドからシュート、インサイドに飛び込んでパスを受ける“カット”の動きを強みにするPFで、佐賀のスタイルにも合うだろう。日本人は経験豊富なPG山下泰弘、PF/C満原優樹とB1上位クラブでプレーしていた実績豊富な選手が加わった。

 帰化選手のファイパブ月瑠、パワフルで創造的なキューバ人PGレイナルド・ガルシアも健在。トータルで見ると昨シーズンを上回る陣容で、長崎に次ぐ西地区の優勝候補と見る。

 熊本はBリーグ初年度から毎年「あと一歩」で昇格を逃し続けているチーム。昨季もセミファイナルでFE名古屋に敗れ、B1に届かなかった。

 今季はドナルド・ベック前HCが「指導者育成コーチ」に退き、遠山向人HCが就任。ジョーダン・ハミルトン、LJピークといったエース級が熊本を去り、昨季のロースターは3名しか残っていない。三遠から加入したPG田渡凌や帰化選手のソウシェリフなど、新加入選手の能力の「足し算」をすれば悪くないが、率直に言って不確定要素が多すぎる。昇格の可否は、シーズン中の成長にかかっている。

 昨季のプレーオフ進出チームと長崎を取り上げたが、今季は混戦で、ここで紹介した7チームが抜けているというわけではない。2021-22シーズンのFE名古屋、2020-21シーズンの群馬のように“ひと桁の敗戦数(9敗以下)”でレギュラーシーズンを終えるチームも出ないだろう。2022-23シーズンのB2は最後まで目の離せない、小さな努力の積み重ねやファンの後押しで差がつくシーズンになりそうだ。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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