[連載小説]アイム・ブルー(I’m BLUE) 第12話 クレイジーな先発メンバー
「4人を組ませた狙いはこれだったんだな」
丈一は今関に言った。
中盤に守備の対応力を身につけさせるために、ノイマンは4対8の練習をやらせていたのだ。この練習を続けていけば、相手が急にシステムを変えたり、予想外のシステムで臨んできたりしても、混乱に陥りづらくなる。
だが、ノイマンの狂気はこれにとどまらない。さらに非常識な指示が選手たちに告げられる。
【(C)ツジトモ】
3つのミッションとは、極端なほどにコンパクトな状態をつくり、かわされるのを恐れずにボールへ突っ込み、裏へロングボールを出されても走り負けないことだ。ボクシングで相手をコーナーに追い詰め、ラッシュをかけるイメージである。
ノイマンは数学の公式を教えるかのような無機質さで、攻撃面の約束事を言った。
「ボールを持ったら、すべてスローインにするつもりで、ロングボールを斜めに蹴り込め。わざと敵陣深くでスローインの状況をつくり、そこへ猛烈なプレスをかけるんだ。もしボールを奪えたら、相手ゴールはすぐ目の前だ」
ラグビーの世界では陣地回復のために、パントキックでボールをわざとタッチラインの外へ蹴ることがある。サッカーでもそれをやれということだ。ボール保持率を限りなくゼロに近づける、究極のアンチポゼッションサッカーである。
ノイマンはミーティングをこう締めくくった。
「今この瞬間から、思考のブレーキを外せ。異次元のプレッシングを、観客に見せつけよう」
ミーティングが終わって部屋に帰るとき、リゴプールの高木が「世界に新しいサッカーを見せられるかもな」と興奮していた。一方、今関は「指示通りにやったら、相手のスローイン数、新記録をつくるんじゃね?」と悲観的だ。
チーム内に知的好奇心と混乱が同時に生まれている。ひとつだけはっきり言えるのは、今夜のチリ戦で、誰ひとり経験したことがないクレイジーな戦術に、みんなでトライするということだった。
試合が夜にあるとき、丈一は1時間ほど昼寝するのをルーティーンにしている。だが、この日は頭の中で思考がぐるぐると回り、とても昼寝できそうになかった。
※リンク先は外部サイトの場合があります
新章を加え、大幅加筆して、書籍化!
【講談社】
代表チームのキーマンに食い込み、ディープな取材を続ける気鋭のジャーナリストが、フィクションだから描き出せた「勝敗を超えた真相」――。
【もくじ】
第1章 崩壊――監督と選手の間で起こったこと
第2章 予兆――新監督がもたらした違和感
第3章 分離――チーム内のヒエラルキーがもたらしたもの
第4章 鳴動――チームが壊れるとき
第5章 結束――もう一度、青く
第6章 革新――すべてを、青く
※リンク先は外部サイトの場合があります