[連載小説]アイム・ブルー(I’m BLUE) 第12話 クレイジーな先発メンバー
これを記念して、4年前にスポーツナビアプリ限定で配信された前作をWEB版でも全話公開いたします(毎日1話ずつ公開予定)。
木崎f伸也、初のフィクション小説。
イラストは人気サッカー漫画『GIANT KILLING』のツジトモが描き下ろし。
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W杯の出場国が32から48に拡大されたのは、2026年大会からだった。中国や中東といったスポンサーを抱える国々を出場しやすくするために、国際サッカー連合が2017年に大会規約を変更したのだ。
グループステージは、48カ国を16組に分け、各組3チームで争う。1位しか次のステージに行けないため、抽選が以前よりさらに大きな意味を持つようになった。
その点、2026年W杯で日本は運に恵まれた。同組に入ったのはアイスランドとペルーという中堅国だった。
当時、日本代表の監督を任されていたのは、現役時代にドイツ1部でプレーし、ドイツで指導者ライセンスを取った元代表選手。フランクフルテのU19で指導していたところを、日本サッカー連盟が抜てきした。攻守のバランスが取れたサッカーでひとつになり、日本はアイスランドとペルーに2連勝。ベスト16進出を果たした。そのときの主力が、上原丈一、松森虎、高木陽介、今関隆史だった。
だが、今回は抽選に恵まれず、ブラジルとスウェーデンと同組になった。選手と新監督が融合しなければ、勝ち目がないのは明らかだ。
そのファーストステップとして、5月30日に新国立スタジアムでチリとの親善試合が組まれた。いわゆるW杯に向けた壮行試合である。仮想ブラジルとしては申し分ないスパーリングパートナーだろう。
チリ戦の試合当日の朝、フランク・ノイマン監督の提案により、スタッフを含めた全員で公園を散歩した。ドイツ人監督はこういう団体行動を好む。それからホテルの多目的室に移動し、先発発表のためのミーティングが開かれた。
【(C)ツジトモ】
「3−4−3」もしくは「3−3−1−3」とでも言えるだろうか。目にした瞬間、アヤッフスの今関が「Sind Sie verruckt?」とつぶやいて頭を抱えた。今関はオランダ語を話せるので、少しだけドイツ語ができる。「あなたはクレイジー?」という意味だ。
丈一も愕然としていた。自分を含めて、多くの選手が本来のポジションとは違うところで使われていたからだ。
【(C)ツジトモ】
トップ下には、同じく普段はボランチの高木が入っている。リゴプールでは中盤だけでなく、サイドバックとしてもプレーするハードワーカーだ。新監督としては激しくプレスをかけさせたいのかもしれないが、前線に“ボランチトリオ“を並べるとはあまりに守備偏重に見える。
逆に後方は攻撃偏重と言えた。本来MFの秋山大が3バックの真ん中に入り、3バックの右にいるのは本来右サイドバックの水島海だからだ。秋山はかろうじて180センチあるものの、水島は177センチしかない。高さに不安がある。
何より最大の驚きは、本来FWの丈一と、本来トップ下の今関がサイドバックとして起用されていることだ。サイドバックは最も上下動が激しいポジションで、運動量がなければ務まらない。なのに、日本代表で最も汗かき役が苦手な2人が、そこに置かれている。
大げさに言えば、クリスティーノ・ロナウトを左サイドバックにし、かつてアルゼンチン代表で10番を背負ったリケロメに右サイドバックをやらせるようなものだ。