[連載小説]アイム・ブルー(I’m BLUE) 第1話 VRルームの18歳
【(C)ツジトモ】
水を飲むと、再びヘッドギアをはめた。
「さあガイダンスさん、次は2014年W杯の日本対コートジボワールをよろしく。確かこれは1対2の逆転負けだったかな。当時の代表選手のみなさん、俺が代わりにリベンジしておきます!」
すでに1試合シミュレーションをして疲れているため、有芯は早送りして後半からゲームを始めた。
パスの質は2006年のチームに比べると少し落ちるものの、全員で守備をする献身さがあり、チームとしてまとまっている。8年間で日本サッカーは随分と戦術的に洗練されていた。
しかし、2006年とは別の部分で違和感を覚えた。中心選手に対して、若手が遠慮している感じがしたのだ。中心選手がミスをしても、「何をやっているんだ」と怒る若手がいない。若手が大人しくて、ふてぶてしさが足りない。
「若手がビビってるなぁ。『ブルー』を身にまとうイメージをちゃんと持ってたのか? もっと不謹慎でいいのに。中心選手に気を遣いすぎてる。ん? これって俺たちの代表にも同じことが言えるかも?」
一瞬、有芯の頭の中に、ユベンテスの上原丈一のことが頭に浮かんだ。オラルジャパンのキャプテンだ。だがVRの中に大物が登場し、すぐにゲームの世界に引き戻された。
後半17分、ドログパが途中出場でピッチに現れたのだ。身長189センチ、やはりデカい。
実際の試合ではここから流れが変わり、2分後と4分後にゴールを決められ、ドログパの出場からわずか4分間で日本は逆転されてしまう――有芯はそれを予備知識として知っていた。
「俺ももう疲れてるし、あのデカさを相手にする余裕はない」
VRとはいえ、走ったり、ぶつかったりするので、実際の試合のように体力を消耗する。有芯はすでにバテていた。そろそろ切り上げよう。それにW杯における日本代表の“空気”を知るという目的は、もう果たした。
「やっぱ日本代表って、いつの時代も一番大事なことを忘れてるんじゃね?」
そんなことを考えているうちに、いいアイデアが頭に浮かんだ。
日本のゴール前にロングボールが送られ、ドログパが高さを生かして胸でトラップしようとした。その瞬間、有芯はジャンプして、ドログパの背中に飛び蹴りを食らわした。
「リベンジ!」
ホイッスルが鳴り響き、有芯は一発退場になった。
まだ、無邪気な18歳である。ラフプレーが多い選手を事前に発見するために、VRの全データが日本サッカー連盟に転送されていることを知らなかった。これで有芯はブラックリスト入りだ。
そして知らない。VRトレーニングに興じているとき、オラル監督が母国で事故に巻き込まれ、死の淵をさまよっていたことを――。
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代表チームのキーマンに食い込み、ディープな取材を続ける気鋭のジャーナリストが、フィクションだから描き出せた「勝敗を超えた真相」――。
【もくじ】
第1章 崩壊――監督と選手の間で起こったこと
第2章 予兆――新監督がもたらした違和感
第3章 分離――チーム内のヒエラルキーがもたらしたもの
第4章 鳴動――チームが壊れるとき
第5章 結束――もう一度、青く
第6章 革新――すべてを、青く
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