パリ五輪の金狙うバドミントン「シダマツ」ペア 2週連続の悔し涙、そこから得たものとは?

平野貴也

最大の経験は、大舞台のプレッシャー

大舞台でいつもの力を発揮できなかった経験は、今後に必ず生きる 【筆者撮影】

 2人にとって、日本の最上位にもなれなかったことは、これ以上ない悔しい経験だ。ジャパンオープンの初戦敗退はもちろんだが、シダマツペアが2大会連続のベスト8で終えた世界選手権でも松本/永原が銅メダルを獲得している。

 前進はなかったと感じたかもしれないが、得るものがなかったとは思えない。むしろ、パリ五輪の金メダルを目指すにあたっては、避けて通れない大きな課題に、ようやく向き合えた。

 志田は、自国開催の2週間を振り返り、次のように話して目を潤ませた。

「世界選手権では本当にたくさんの方が(会場に)入っていて、このタイトルを取りたいという気持ちでコートに入っていました。1回戦から最後まで結構硬くて、どこかで緊張してしまったり、どこか(点数を早く)欲しがったりして、自分たちを出し切れなかった。本当に五輪とか上の(舞台で戦う)人たちは、こういう緊張感とかプレッシャーを背負いながら試合をしているんだなと。その大きさをすごく感じたんですけど……」

 この2週間で得た最大の経験は、イメージしてもし切れない、予想を大きく超えるプレッシャーを味わったことだ。日本のエースとして臨む、金メダルを取りに行くという姿勢で大きな舞台に臨めたことで、体験しなければ分からないことを知ることができた。

一足飛びにはいかない、コロナ禍による経験不足というハンデ

 シダマツペアを含め、東京五輪に出られず、パリ五輪を目指している世代は、コロナ禍による経験不足というハンデを負っている。20年春から21年春まで、ほとんどの国際大会が中止となり、20年に開催予定だった東京五輪は1年延期された。本来ならば、世代交代の1年目は昨年。そこで、もう少し上位相手の勝ち負けを経験し、圧力との付き合い方も学べていたはずだ。昨季終盤、いつも引っ張ってもらう立場にいる松山が、自分の意見を志田に主張するようになってきたのも、さらに積み重ねるべきところだろう。昨季から勢いよく勝ち上がっている2人だが、まだまだトップ争いに必要な経験を積んでいる最中と言える。

 日本の女子ダブルスは、パリ五輪でも、東京五輪に続いて1カ国最大2枠の出場権を、3組以上で争う可能性が高い。9月6日更新の世界ランクで日本勢最上位の4位となった志田/松山が、その中の有力候補であることに変わりはない。今季のワールドツアーランクでも4位につけており、12月のワールドツアーファイナルズに出場できれば、また大舞台での経験を積むことができる。

 日本での2週間で一足飛びに世界の頂点に立つことはできなかったが、23年5月に始まるパリ五輪出場権獲得レースに向け、これからも様々な経験を積み上げることが何よりも重要だ。2週連続で流した悔し涙が糧になった――金メダルを手に、そう振り返れる日が来るように、2人は走り続ける。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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