ブラジル戦から学んだ「世界との戦い方」 ガーナ戦での森保采配と久保の代表初得点

宇都宮徹壱

「ブラジルが教えてくれた」世界との戦い方

A代表デビューから17試合目にしてようやく初ゴールを決めた久保。「長かったです」と安堵の表情を浮かべた 【宇都宮徹壱】

 試合後「日本は勝利にふさわしいチームだった」と語ったのは、ガーナ代表のナナ・オットー・アッド監督。結果的に大敗となってしまったガーナだが、いささか同情の余地もあった。メンバーの1人が試合当日、コロナの陽性反応によりチームを離れてしまったのである。主力の負傷離脱もあり、この日のベンチメンバーはわずかに5人。そうした状況を差し引いても、アッド監督のコメントは、日本にとってポジティブなものばかりだった。

「日本はウイングに攻撃力があり、何度もボックス内にクロスを入れてきたが、われわれはそれを止めることができなかった。ディフェンスからのカウンターも良かったし、1対1の場面でも相手はいつも2人になっていた。ディフェンスの枚数を増やしても、それ以上に日本のプレッシャーは強かった」

 森保監督が聞いていたら、さぞかし満悦したことだろう。ワイドからの分厚い攻撃、素早い攻守の切り替え、そして連続した守備。これらはいずれも、世界と戦うために指揮官が選手たちに要求してきたものばかりであった。そして、その思いをことさら強くさせたのが、ブラジルとの対戦だったと森保監督は語る。

「世界のトップ(オブ)トップに対して何をすべきか? もちろん個の力を上げていくことも大事ですが、組織としても連動して、いかに相手を上回っていくか。今日の試合では、連携連動の攻撃ができていたと思います。個を高めつつ、組織力で打開していく。個の強さだけで世界と戦うのは難しいことを、ブラジルが教えてくれました」

 敗戦で得た教訓をピッチ上で表現できたこと、起用した選手たちが期待どおりの働きを見せたこと、そして指揮官自身のベンチワークも含めて、日本代表にとっては久々に会心の試合だった。とはいえ、そんなグッドゲームも、いずれは忘却の彼方に溶け込んでゆく。2022年キリンカップのガーナ戦は、むしろ「久保建英が初ゴールを決めた試合」として、サッカーファンの間で記憶されるのではないか。

「長かったです。このまま一生、入らないんじゃないかと」と、試合後に語っていた久保。代表デビューは、2019年6月19日のエルサルバドル戦で、18歳の誕生日から15日後のことであった。それから3年。周囲からの期待と注目による重圧は、いかばかりであったか。近年は伸び悩みがささやかれ、代表でのアピールも乏しかった。このゴールが「日本の至宝」の転機となることを期待したい。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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