琉球の名物実況アナが教えてくれた あのフレーズが生まれたわけ
「どうにも止まらない山本リンダ状態」は諸刃の剣?
「どうにも止まらない山本リンダ状態」は昨年のチャンピオンシップ、琉球ゴールデンキングス対富山グラウジーズの今村佳太選手のパフォーマンスから生まれた 【©B.LEAGUE】
こうして生まれた「どうにも止まらない山本リンダ状態」は楽しんでくれる人もいればSNSで絶対にたたかれる、使った本人もダメージを受けるというまさに諸刃の剣。二度は使うまいと心に誓いGAME2の実況に臨みました。
2日目の今村選手は前半を終えて3Pシュート1本の5得点。リンダを使わなくても済むかと内心ホッとしていました。
しかし、3Qに入ると前半得点のなかった富山グラウジーズの岡田侑大選手(現信州ブレイブウォリアーズ)が3Qだけで3P 2/3を含む19得点! 「おやおや? こ、これは…」どうにも止まらない山本リンダ状態に(汗)
正直焦りました。絶対にSNSでたたかれる、リーグにも怒られるかもしれない。でも目の前の岡田選手の活躍は明らかにリンダ状態…泣きながら諸刃の剣を振りました。
激闘のQFは、岡田選手の活躍で見事にGAME2を富山が取り返したことでGAME3までもつれ込むことに。
2日連チャンで諸刃の剣を使ったあったゆういちはMP(メンタルポイント)をかなりすり減らしていたのです。GAME3の実況中に言葉が出なくなってしまうんじゃないか? そんな恐怖を抱えている心の内を解説の与那嶺翼さんに話したところ「自分たちらしく、バスケを楽しんでいきましょう!」という言葉をかけられ、あったゆういちのMP(メンタルポイント)は少し回復しました(笑)
そして運命のGAME3。
この日キングスの今村選手は再び3P 7本を含む27得点の大活躍。まさか3日連チャンで「どうにも止まらない山本リンダ状態」を使うことになるとは思いもしませんでした。しかしその日の沖縄アリーナではキングスファンの中から「山本リンダ状態だ」という言葉が飛び出していたそうです。
泣いちゃう。
そして次に実況を担当したSFでは千葉ジェッツのセバスチャン・サイズ選手(現アルバルク東京)を「ウイングスパンの実の能力者」と抽象化。相手のエースを封じる守備力を誇る佐藤卓磨選手を「エース封じの領域展開」と抽象化するなど、選手へのリスペクトと人気漫画へのオマージュを込めました。
全ての選手、全てのプレーでそういった抽象化ができるわけではありませんが、見る人の心に言葉を引っ掛け、印象的に残したい。バスケ初心者の方がその日のゲームを振り返っても、「すごかったね」「なんか面白かったね」と会話を楽しんでもらいたいと思っています。
封印しようと思っていたところ、富山の岡田侑大選手(現信州)の活躍で“止まらなく”なってしまった 【©B.LEAGUE】
プレースピードの緩急、ゲーム展開にも速い、遅いがあり、そのリズムに乗っていくような言葉のリズムというのも実況する際には気をつけています。
そして試合には温度、熱量というものも存在します。
1on1、ドライブによるペイントアタック、リバウンドやダンクなどコート上で絶え間なく繰り返されるプレーの熱量。それに呼応するかのように会場の熱量も常に変化し、いろんな情報を持っています。しかしそれは目には見えません。その見えないものを感じ取り言語化するということも私が実況する上では大切にしています。
会場の雰囲気を感じ取り、自分の言葉の温度を変化させていく。
これは役者として生の舞台に立ってきた経験が生かされているのだと思います。
そんなあったゆういちが実況者として目指すところは、バスケの試合を見ていて沸いてくる感情。
凄い!
楽しい!
面白い!
惜しい!
悔しい!
これらの5Gならぬ5Eの感情を実況席とお茶の間で共有すること。
その理想に正解はないかもしれませんが、bj時代、沖縄市体育館で試合をしていた頃からバスケを楽しむことを教えてくれたキングスはもちろん、屋嘉さんとドンさんの実況解説コンビによるあの居酒屋実況が、沖縄生まれ沖縄育ちのウチナーンチュ実況者あったゆういちの原風景であることは確かです。