W杯アジア最終予選特集 #この一戦にすべてを懸けろ

気持ちを切らず代表のCB争いに名乗り 30歳・谷口彰悟が存在感を増している理由

投げてしまったらそこでゲームオーバー

王者・川崎では20年シーズンから腕章を巻く。「常に準備を怠らず、チームのために戦える選手がチャンスを掴む」が、経験則からの持論だ 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

――森保ジャパンでの谷口選手の歩みを振り返ると、昨年6月のセルビア戦(強化試合/1-0で勝利)で好アピールをしたものの、9月から始まった最終予選は、ケガもあって最初の4試合に招集されませんでした。その間のチームの戦いを、どう見ていましたか?

 まさかの黒星スタートで、さらに早い段階(3試合目)で2敗目も喫してしまった。背水の陣というか、崖っぷちで戦っている代表選手たちの姿を見て、最終予選の難しさをあらためて痛感しましたね。その後、いざ(11月に)招集されて合流したときも、ヒリつくような空気にチームは包まれていました。それでも、「絶対にW杯に出るんだ」と、死に物狂いで戦うチームメイトから、一戦一戦、負けられない試合に臨む心の持ちようを学べたのは大きかったですね。

――ベトナムとオマーンに連勝した、昨年11月のアウェー2連戦の経験が、年明けの中国戦とサウジアラビア戦に生きたのでは?

 僕は“チームの温度感”を大事にしていて、自分が試合に出ようが出まいが、とにかくチームが勝つために何ができるかを考えるようにしていました。やっぱり全員が同じ思いを持って進むことが重要で、特にアウェーゲームは本当の意味で一致団結しないと勝利を得るのは難しい。そのときに勉強できた最終予選の戦い方が、年明けの2連戦の好結果につながったと思っています。

――ただ、昨年11月は出番がなく、ベトナム戦ではベンチ外も経験しましたね。

 もちろん悔しかったですよ。でも、そういう状況でも、チームが勝つためにやるべきこと、例えば声がけなど一体感を作る働きを徹底してやりました。僕は今の代表チームでは年齢が上の方ですし、みんなの模範となるような言動をしなくてはならないと自覚しています。若い選手は試合に出られないと、気持ちをうまくコントロールできないかもしれませんが、僕は悔しさを押し殺しながらでしたけど(苦笑)、とにかくチームのために行動しました。この悔しさはフロンターレに戻ったときに、自らの成長のために生かすしかないと、そう割り切っていましたね。

――どんなときも気持ちを切らさずに。

 そこはフロンターレでキャプテンを務めさせてもらっている経験も生きたはずです。「試合に出られないんだったらもういいや」と投げてしまったら、そこで終わりというか、最終的には自分に返ってきますからね。僕もいろんな選手を見てきましたが、結局、常に準備を怠らず、チームのために戦える選手がチャンスをつかみ取るんです。

 自分も久しぶりに控えという立場になりましたが、そこでやる気をなくしてしまえば、ゲームオーバーだと理解していました。次の試合、次のトレーニングに向けて、今、自分に何ができるのかを真摯に考え、行動する。あらためて、そういう考え方が大事なんだと学びましたね。

――そう考えると、中国戦とサウジアラビア戦での活躍は必然だったようにも感じます。

 いつ代表で出番が回ってきてもいいように、フロンターレでも意識してプレーしていましたからね。だからこそ、いざチャンスが巡ってきてもバタつかなかった。今まで培ってきたこと、自分にできることを整理しながら試合に入れた。やっぱり準備がすべてだなと実感しましたね。

日本のCBは吉田選手と冨安選手だけじゃない

ビルドアップ能力の高さが魅力の谷口。川崎の元同僚、守田英正や田中碧らとの関係性をさらに深め、CBのレギュラー争いで優位性を示したい 【写真:ロイター/アフロ】

――あらためて、大一番となるオーストラリア戦への意気込みを訊かせてください。

 アウェーでの戦いになりますが、勝ってW杯出場を決めたいです。その思いを全力で表現しなくてはいけないゲームになります。誰が出場しようが、みんなで勝ち取りたいですね。僕が試合に出られるかどうかは分かりませんが、先ほども話したように、良い準備をし続けたい。W杯出場のためにできることがあれば、すべての力を注ぎたいんです。

――オーストラリアの攻撃陣には、ヨーロッパでの経験が豊富な選手も多く、一筋縄ではいかないはずです。谷口選手の真骨頂であるポジショニングや判断力は生かせそうですか?

 その部分には自信を持っていますし、実際に中国戦、サウジアラビア戦で手応えもつかめました。これまでの努力は間違っていなかったと再確認もできました。もちろん、自分が知るのはアジアのレベルであって、それを世界との戦いにつなげなくてはいけない。そのためにも、自分の中にある基準をさらに上げたいですね。

――今回のオーストラリア戦は冨安選手が負傷で招集外となりましたが、これからCBのレギュラー争いを制すには、吉田選手と冨安選手の壁を越えなくてはいけません。

 これまでチームを引っ張ってきた2人ですし、監督からの信頼も相当に厚いと思います。でも、彼らの牙城を崩すような3人目、4人目のCBが出てこないと、チームは強くなりません。前回の2試合で多少なりとも監督の頭の中に、自分の存在を刻み込めたのかなという感覚はあるので、引き続きチャンスを生かしたいですね。日本のCBは吉田選手と冨安選手だけではないというところを示したいです。

――少し気は早いですが、今年11月末から開催されるカタールW杯への思いは?

 自分にとっては最初で最後のW杯になると考えています。だからなにがなんでも、どんな形であっても出たい。その気持ちは日に日に膨らんでいます。言うまでもなく今年は勝負の1年、覚悟を持って臨むべき1年。明確な目標があるからこそ、今はとても充実していますし、心も身体も良い状態を保てています。W杯に出るために、次のオーストラリア戦でもチームの助けになれるよう頑張りたいですね。

――谷口選手の代表での活躍は、他のJリーガーにとっても刺激にもなるはずです。これまでの努力を知っているからこそ、中国戦とサウジアラビア戦での奮闘には心が熱くなるものがありました。

 ここ数年のパフォーマンスは悪くないと思っていましたが、なかなか代表につながりませんでした。「代表とは縁がないんだ」と、自分を納得させようとした時期もありました。でも、やっぱりあきらめきれなかった。

 だからこそ、年明けの2試合にはすべてを懸けて臨みましたし、結果として無失点で抑えられて、あきらめずに頑張ってきて良かったなと、しみじみと感じましたね。そして同時に、自分のサッカー人生はまだまだこれからだぞ、とも──。これまで支えてくれた周りの方たちの思いに応えるためにも、代表の舞台でさらに活躍したいですね。

(企画構成:YOJI-GEN)

谷口彰悟(たにぐち・しょうご)

1991年7月15日生まれ。熊本県出身。大津高から筑波大に進学し、大学在学中の特別指定を経て、2014年に川崎フロンターレに正式加入した。主にCBとしてプロ1年目から出場機会を得ると、17年シーズンのJ1初優勝など数々のタイトル獲得に貢献。連続出場155試合は、フィールドプレーヤーとしてJ1歴代2位の記録だ。15年6月のイラク戦で日本代表デビュー。その後、代表とはなかなかな縁がなかったが、今年初めのカタールW杯アジア最終予選の2試合(中国戦、サウジアラビア戦)では、負傷欠場した吉田麻也、冨安健洋の穴を埋める活躍でチームを勝利へ導き、評価を高めた。

【試合情報】
AFCアジア予選 -ROAD TO QATAR-
第9戦 オーストラリア代表vs日本代表
3月24日(木)18時10分キックオフ(17時30分配信開始)
DAZNにて独占配信

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