デンマーク戦、大逆転の伏線は8エンド 劇勝のカーリング女子を船山弓枝が解説

竹田聡一郎

2点ビハインドで迎えた第10エンドの藤沢のラストロックで3点を奪取。劇的な大逆転勝利を飾った 【写真は共同】

 12日、北京五輪のカーリング女子の1次リーグが行われ、世界ランキング7位で2018年平昌五輪銅メダルの日本代表「ロコ・ソラーレ」は、同10位のデンマークに8−7で逆転勝利。2連勝で1次リーグの通算成績を2勝1敗とした。2点ビハインドで迎えた第10エンド、スキップ・藤沢五月がラストロックでハウス(円)から相手のストーン(石)を2つはじき出すダブルテイクアウトを決める。起死回生のショットで一気に3点を奪う大逆転劇となった。

 苦しい試合展開になるも、持ち前の明るさと諦めない姿勢で流れをたぐり寄せ、最後には勝利を収めた日本。デンマーク戦での勝敗を分けたポイントはどこだったのか。北京五輪代表決定戦でロコ・ソラーレと死闘を演じたフォルティウスのリード・船山弓枝さんに、大逆転劇の要因と今後の試合の展望を聞いた。

カーリングの面白さが詰まったデンマーク戦

藤沢のラストロックにつなげた「タイムアウト」。ロコ・ソラーレはそのタイミングも絶妙だった 【写真は共同】

――デンマーク戦、劇的な逆転勝利を飾りましたが、試合展開の印象についてお聞かせください。

 本当にどっちが勝つか分からないシーソーゲームでしたね。前半は全体的に日本のペースで進みつつ、後半の7、8エンドあたりでデンマークのセカンドのデニス・デュポン選手、スキップのマドレーヌ・デュポン選手が姉妹で好ショットを決めてくる。そんな展開に日本は苦しみましたね。「流れとメンタル的にはデンマークに有利だな」と思っていたら最後にチャンスが来ました。こんな結末が待っているとは、「カーリングの面白さが詰まっていた試合」でした。

――藤沢選手のラストロックにつながる最終10エンド。日本は2点を追いかける後攻でした。ポイントはどこにあったのでしょうか?

 鈴木夕湖選手の2投目の前に、ロコ・ソラーレはタイムアウトをとっているんですよ。タイムアウト明けのショット率は五輪や世界選手権などの大きな大会では、タイムアウトの回数とともにスタッツとして発表されます。タイムアウトにはゲームの流れを引き寄せる役割や、ちょっと時間を置いて切り替える目的がありますね。そのうえで、短くても2分以上の中断を挟むので、アイスの状況が若干、変わることも珍しくありません。そういう意味ではとても重要で、集中力を要する大事なショットになることが多いんですよ。

 鈴木選手はNo2.ストーンにくっつけるフリーズを狙い、もう少し奥まで入れば理想でしたが、No1.となるとてもいい場所に置けました。あの配置になったことで、ストーンがハウスに残りやすい展開に持ち込むことができましたし、相手のミスが絡んでのチャンス到来となりました。ロコ・ソラーレとしては相手のミスを生む状況を作れたと言えます。話し合いの中身は当然ですが、タイムアウトを取るタイミングや、タイムアウト明けのショットの精度も含めてとても効果的だったと思います。

――最後は藤沢選手のダブルテイクアウトで3点を獲得しています。

 藤沢選手の技術があれば、そこまで難しいショットではありませんでした。ただ、五輪という大舞台、特に今大会は優勝候補のスウェーデンやカナダにすでに土がついているように、本当に実力伯仲の10チームがそろっています。おそらくどのチームもチャンスは1試合で数回しか作れません。そのわずかに来たチャンスをしっかり決め切れるチームが、プレーオフ以降に進めるチームですね。そういう意味では日本にとっては本当に大きなラストロックでした。

「8エンドに似たテイクを投げていたから…」

似たシチュエーションからのショットを経験することで、その後のショットの伏線になることも 【写真は共同】

――ラストロックでTwitterのトレンドには「ダブルテイクアウト」や「藤沢さん」が上がり、逆転勝利のニュースがヤフーのトップに載るなど日本中で注目を集めました。

 カーリングが注目され、そういう視聴者の方の反応があるのはうれしいですね。ただ、あのラストロックをもう少し解説させてもらえるなら、8エンドの藤沢選手の最終ショットは、10エンドの勝負を決めたショットとほぼ同じラインのテイクでした。外に投げて相手のストーンを弾いて、シューター(投げた石)を中央に寄せるヒット&ロールです。

 カーリングは同じシート(プレーエリア)を行ったり来たりするゲーム。1エンドからの奇数エンドが「行き」だとすると、2、4、6、8、10の偶数エンドは「帰り」ですね。アイスコンディションは常に変わるので、たとえば1エンドと2エンドのリードの1投目のセンターガードでも、まったく同じウェイト(ストーンの速さ)と(曲がる)幅とは限りません。だから仮に6エンドに選手が「さっき投げたよね」という会話をすることがありますが、その場合の「さっき」は4エンド、あるいは2エンドのことだったりします。

 そう考えると藤沢選手の「勝負を決めるショットの伏線は8エンド」にありましたし、8エンドに似たテイクを投げていたから、残り時間の少ない中で自信を持って決められた。そう解釈することもできます。

――そうした伏線を頭に入れながらテレビ観戦すると、さらに楽しみが増えますね。他にも観戦上級者になるためのポイントがあれば教えてください。

 みなさん、ハーフタイムでの補給“もぐもぐタイム”に注目してくれていますよね。それはカーリングを知るとてもいいきっかけなので、ついでにそのまま後半戦に入る6エンド目に注目してみてください。

 ハーフタイムに選手が補給、後半に向けての作戦、アイスの情報の共有などをしている間にアイスメイクが入ります。ハック(デリバリーの際の足場)周辺にペブル(摩擦を生む水の粒)を改めて撒くので、前半5エンドとアイスが大きく変化することもあります。日本は初戦のスウェーデン戦でスチールによって3点を奪われ、2試合目のカナダ戦でも複数得点を許しています。ロコ・ソラーレは修正能力の高いチームですから、このあたりの修正を含めて、後半の入りという部分も注目するとより深く観戦ができるかもしれません。

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著者プロフィール

1979年神奈川県出身。2004年にフリーランスのライターとなりサッカーを中心にスポーツ全般の取材と執筆を重ね、著書には『BBB ビーサン!! 15万円ぽっちワールドフットボール観戦旅』『日々是蹴球』(講談社)がある。カーリングは2010年バンクーバー五輪に挑む「チーム青森」をきっかけに、歴代の日本代表チームを追い、取材歴も10年を超えた。

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