連載:プロ野球・好きな球場ランキング

新井貴浩が選ぶ好きな球場ランキング 順番はつけがたいけれど…

前田恵
 球場は、選手にとってもファンにとってもたくさんの思い出が詰まっている場所。嬉しい思い出も苦い思い出も日々、たくさんの感情があふれ出します。広島と阪神、プロ野球で20年を過ごした新井貴浩さんにとっては、どの球場でどのような思い出があったのでしょうか。各球場の思い出や好きな球場ランキングを訊いてみました。

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楽しい思い出も苦い思い出も詰まっている広島市民球場

1999年、試合前の広島市民球場で走り込むプロ1年目の新井貴浩さん 【写真は共同】

――まずは新井さんの「好きな球場ベスト3」を挙げていただけますか?

 MAZDA Zoom-Zoomスタジアム広島と広島市民球場、阪神甲子園球場の3つですかね。これは、順位を付けないといけませんか?

――順番は付けづらいですか?

 はい。僕は広島で生まれ育ち、プロ入りした最初の球団も広島カープでしたから、市民球場は小さいころからの思い出が詰まった場所。でも甲子園にはまた、特別な想いがあるんですよね。やはり「高校生になったら、(全国高校野球選手権大会で)甲子園に行きたい」というのが子どものころからの夢であり、憧れでしたから。

――残念ながら広島工業高時代に、その夢は叶いませんでしたね。

 だからプロ野球選手になって足を踏み入れた球場で一番感動したのが、甲子園なんです。ベンチ裏にいたときから、もうドキドキ、ワクワクしていました。ダグアウトを出てグラウンドに上がった瞬間、「わあ、大きいな〜。これが甲子園か」と、とにかく感動したのを今も覚えています。

――そのときは、広島カープの選手だったわけですよね。ビジターの選手として感じた甲子園、阪神タイガースの大声援はいかがでしたか?

 僕のプロ1年目(1999年)は、広島戦だとそこまで満員にならなかったんですよ。変わったのは2002年、星野仙一さんが監督に就任されてからですね。とりわけ2003年、(阪神が)リーグ優勝した年は連日超満員でね。阪神のチャンスになると、地響きのような大声援に包まれて、球場全体が異様な雰囲気でした。

――それではいったん時計を巻き戻して、子ども時代の広島市民球場の思い出を聞かせてください。いつもスタンドのどのあたりで試合を見ていたのですか?

 父親と一緒に、三塁側内野席で観戦していたことが多かったですね。広島ベンチが一塁側なので、三塁側からのほうがベンチ内はよく見えるんですよ。山本浩二さん、衣笠祥雄さん、山崎隆造さんといった選手をずっと目で追っていました。

――そんな広島カープの一員になったときは……。

 それはもう、嬉しかったですよね。「プロ野球選手になる」より「広島の選手になる」ことが、小さいころからの夢でした。実際広島の選手になって、子ども時代に慣れ親しんだ市民球場でプロ人生が始まっていくと思うと、たまらなく嬉しかった。

――プロになって感じた市民球場の雰囲気、グラウンドのイメージはいかがでしたか?

 僕が入団した当時の広島は、ずっとBクラスに低迷していた時期で、スタンドもなかなか満員にはなりませんでした。夏場を過ぎるとある程度順位が見えてきて、スタンドのお客さんもまばらになり始め……。そもそもお客さんの層も、今のマツダスタジアムとは少し違いましたね。スタンドからのヤジもよく聞こえました。1957年の開場で老朽化は否めなかったけれども、自分も含め多くの選手がプレーし関わってきた球場で、それだけの歴史がある。僕にとってはとても愛着のある、大好きな球場でした。

――市民球場での一番の思い出はなんでしょう?

 2008年、FAで阪神に移籍し、初めて敵チームの一員として市民球場へ戻ってきた試合(4月1日)ですね。特に1回表、(三番打者として)最初の打席に入ったときは、スタンドから盛大なブーイングが沸き起こりました。怒声や罵声が聞こえ、広島時代のユニフォームがグラウンドに投げ込まれました。覚悟はしていましたけれどもね。だから市民球場は……もちろん僕にとって一番愛着のある球場であることに変わりはないんです。子どものころ大好きな広島を応援しに通い、高校生になってからは、地方予選をここで戦いました。プロで自分がここまで育ててもらったのも、間違いなくこの球場です。ただそれだけ愛着があり大好きな球場である一方、広島の一員としても、敵となっても苦しい思い出がたくさん詰まった場所でしたね。
 

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著者プロフィール

1963年、兵庫県神戸市生まれ。上智大学在学中の85、86年、川崎球場でグラウンドガールを務める。卒業後、ベースボール・マガジン社で野球誌編集記者。91年シーズン限りで退社し、フリーライターに。野球、サッカーなど各種スポーツのほか、旅行、教育、犬関係も執筆。著書に『母たちのプロ野球』(中央公論新社)、『野球酒場』(ベースボール・マガジン社)ほか。編集協力に野村克也著『野村克也からの手紙』(ベースボール・マガジン社)ほか。豪州プロ野球リーグABLの取材歴は20年を超え、昨季よりABL公認でABL Japan公式サイト(http://abl-japan.com)を運営中。

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