連載:プロ野球・好きな球場ランキング

新井貴浩が選ぶ好きな球場ランキング 順番はつけがたいけれど…

前田恵

大歓声もため息もすごい甲子園

2008年9月27日の巨人戦(甲子園)、代打でタイムリーを放つ新井さん 【写真は共同】

――2008年、阪神に移籍して今度は甲子園の大声援を味方に、打席に立つことになりました。どんな気持ちでしたか?

 収容人数4万超の球場が満員に膨れ上がった中で、ホーム側の選手として圧倒的な応援をしてもらえるなんて、それまでほとんど経験がありませんでしたからね。大きな力をもらえる半面、自分の調子が悪いと、逆にそれがプレッシャーになって……(苦笑)。

――野手として、バッターとして、甲子園のグラウンドはどういう印象がありますか?

 最高のグラウンドでしたね。内野の土から外野の天然芝から、阪神園芸さんがきめ細かなメンテナンスと管理を行ってくださっていますから。特に夏の(全国高校野球)選手権期間中は、連日のように1日4試合行われ、グラウンドはボロボロになっていてもおかしくない。だけど僕らが(選手権期間中の)遠征から戻ってくると、ちゃんと元通り、綺麗に整備されているんです。「プロの仕事は凄いな、さぞ苦労しながらメンテナンスしてくださっているんだろうな」と感謝すると同時に、阪神園芸さんのプロとしての誇りを見せていただいた思いでした。

――いわゆる「浜風」についてはどうでしょう。

 あれはライト方向からレフト方向に向かって吹くことが多いので、左バッターがライト方向に強い当たりを打つには向かい風が不利になります。でも僕ら右バッターにとっては追い風となり、むしろ有利でしたね。風の強い日は、外野フライの(捕球位置の)計算は、ホームの選手としても難しかったですが。

――そんな甲子園での一番の思い出はなんですか?

 阪神1年目の2008年ですね。北京五輪から戻ってきたとき、腰椎の疲労骨折が発覚して離脱したんです。そのリハビリ中、当時監督だった岡田(彰布)さんから「お前、行けるか?」と連絡が来ました。選手として「行けるか?」と聞かれたら、「行きます」と答えるしかありません。まだバッティング練習も始めていない中、甲子園に駆け付けると、「今日登録して、すぐ代打で行くぞ」という。この年、阪神は巨人に13ゲーム差付けて首位を走っていたところから、ぐんぐん追い上げられ、ついに追いつかれた。その巨人との直接対決(9月27日)だったんですよ。

――巨人の「メークレジェンド」の年ですね。

 そうです。巨人のマウンドは、越智(大祐)君だったと思います。ちょうど桧山(進次郎)さんが打席に入るところで、僕が(代打出場に備えて)ベンチから出た。その瞬間の大歓声はまるで地鳴りのようで、バーッと鳥肌が立ちました。左バッターの桧山さんは一塁側ベンチが見えなかったから、その大歓声を聞いて「何事か」と一度、打席を外したほどだったんですよ。

――そんな中、打席に集中する、気持ちを落ち着かせる秘訣はあるのでしょうか。

「落ち着かせる」のではないんです。その大歓声を全部受け止め、気持ちを高ぶらせるだけ高ぶらせて、打席に入る。そのときは一死満塁から、ライト前にタイムリーヒットを打ちました。

――声援を味方にしてしまえば、甲子園は新井さん向きの球場だったということですね。

 その分、先ほども言ったように、調子が悪いときの反動はありましたけどね。打席へ向かうときの大声援が、凡退した瞬間すべて「ハアー」というため息に変わる。あれがひどく突き刺さるんですよ(苦笑)。
 

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著者プロフィール

1963年、兵庫県神戸市生まれ。上智大学在学中の85、86年、川崎球場でグラウンドガールを務める。卒業後、ベースボール・マガジン社で野球誌編集記者。91年シーズン限りで退社し、フリーライターに。野球、サッカーなど各種スポーツのほか、旅行、教育、犬関係も執筆。著書に『母たちのプロ野球』(中央公論新社)、『野球酒場』(ベースボール・マガジン社)ほか。編集協力に野村克也著『野村克也からの手紙』(ベースボール・マガジン社)ほか。豪州プロ野球リーグABLの取材歴は20年を超え、昨季よりABL公認でABL Japan公式サイト(http://abl-japan.com)を運営中。

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