スノーボードの真髄を示した平野歩夢の戴冠 「通過点」の金メダルを野上大介が解説
平野歩夢が受け取った世界王者からの「バトン」
今大会で現役引退を表明したショーン・ホワイト。決勝を終えコーチと抱き合う。 【Photo by Cameron Spencer/Getty Images】
実は、トリプルコーク1440はホワイト選手がバンクーバー五輪の後、ソチ五輪に向けて最初に挑戦した技なんです。それを歩夢選手が10年の時を経て、この大舞台で成功させた。ホワイト選手が築いてきたスノーボードのカルチャーを、歩夢選手にバトンパスした。そんなストーリーを2人が抱き合っているシーンに垣間見たような気がして、胸が熱くなりましたね。
「強さ」と「かっこよさ」を兼ね合わせた平野歩夢のスタイル
スノーボードの何たるかを見せつけた平野歩夢。それは単なる金メダル以上の価値がある 【写真は共同】
今回、歩夢選手は「強さ」だけではなく「かっこよさ」を伝えてくれたと思っています。彼は「表現すること」をすごく大事にしている選手ですし、それがスノーボードの真髄だと私も考えています。勝つためにトリプルコーク1440が当たり前の時代になるのではなく、「かっこいいからスノーボードに挑戦してみたい!」という子どもたちが増えること。それこそが、真のスノーボードの新時代の幕開けにつながると信じています。
スノーボードは「かっこよさ」を追求するカルチャーが重要なんですよね。スノーボーダーではバンクーバー五輪の日本代表だった國母和宏さんが日本のスノーボード界のそうした思想の先駆者となりました。そして、バックカントリーに行ってビデオパートを作ることをプロスノーボーダーとしてのゴールにしていました。
一方で、歩夢選手に「五輪で結果を残したらそういう活躍をするのか」と聞いたことがあるのですが、「それはみんながやることなので、自分は自分にしかできない道で表現していきたい」と言っていました。恐らくそれがスケートボードとの二刀流であり、その二刀流のゴールにスノーボードでの五輪の頂点を見据えていたのだと思います。試合後のインタビューで「夢が1つ叶った」と言っていたので、彼にとっては五輪の金メダルもあくまで通過点なのでしょう。
野上大介(のがみだいすけ)
【写真:BACKSIDE編集部】