スノーボードの真髄を示した平野歩夢の戴冠 「通過点」の金メダルを野上大介が解説

久下真以子

平野歩夢が受け取った世界王者からの「バトン」

今大会で現役引退を表明したショーン・ホワイト。決勝を終えコーチと抱き合う。 【Photo by Cameron Spencer/Getty Images】

 過去3大会で金メダルを獲得し、今大会での現役引退を表明した35歳のホワイト選手の姿にも心を動かされましたね。現役ラストの滑りは転倒しましたが、すがすがしい表情を見ていたら、本当に悔いがないことが伝わってきました。

 実は、トリプルコーク1440はホワイト選手がバンクーバー五輪の後、ソチ五輪に向けて最初に挑戦した技なんです。それを歩夢選手が10年の時を経て、この大舞台で成功させた。ホワイト選手が築いてきたスノーボードのカルチャーを、歩夢選手にバトンパスした。そんなストーリーを2人が抱き合っているシーンに垣間見たような気がして、胸が熱くなりましたね。
 

「強さ」と「かっこよさ」を兼ね合わせた平野歩夢のスタイル

スノーボードの何たるかを見せつけた平野歩夢。それは単なる金メダル以上の価値がある 【写真は共同】

 歩夢選手の「みんながそろった決勝で勝てた」というインタビューの言葉には、弟である海祝選手や、チームメイトの流佳選手や戸塚選手だけでなく、小さいころから憧れてきたホワイト選手のことも含まれていると思っています。歩夢選手は以前からスノーボード界のトップに君臨していたので、私は「新時代が来た」という言い方はしませんが、今回の活躍で日本中から注目されますし、間違いなく国内外問わず彼を追いかける選手が増えるでしょう。

 今回、歩夢選手は「強さ」だけではなく「かっこよさ」を伝えてくれたと思っています。彼は「表現すること」をすごく大事にしている選手ですし、それがスノーボードの真髄だと私も考えています。勝つためにトリプルコーク1440が当たり前の時代になるのではなく、「かっこいいからスノーボードに挑戦してみたい!」という子どもたちが増えること。それこそが、真のスノーボードの新時代の幕開けにつながると信じています。

 スノーボードは「かっこよさ」を追求するカルチャーが重要なんですよね。スノーボーダーではバンクーバー五輪の日本代表だった國母和宏さんが日本のスノーボード界のそうした思想の先駆者となりました。そして、バックカントリーに行ってビデオパートを作ることをプロスノーボーダーとしてのゴールにしていました。

 一方で、歩夢選手に「五輪で結果を残したらそういう活躍をするのか」と聞いたことがあるのですが、「それはみんながやることなので、自分は自分にしかできない道で表現していきたい」と言っていました。恐らくそれがスケートボードとの二刀流であり、その二刀流のゴールにスノーボードでの五輪の頂点を見据えていたのだと思います。試合後のインタビューで「夢が1つ叶った」と言っていたので、彼にとっては五輪の金メダルもあくまで通過点なのでしょう。
 

野上大介(のがみだいすけ)

【写真:BACKSIDE編集部】

1974年、千葉県生まれのスノーボードジャーナリスト。大学卒業後、全日本スノーボード選手権ハーフパイプ大会に2度出場するなど、複数ブランドの契約ライダーとして活動。2004年から世界最大手スノーボード専門誌の日本版に従事し、約10年間にわたり編集長を務める。その後独立し、2016年8月に『BACKSIDE』をローンチ。X GAMESや五輪など、スノーボード競技におけるテレビ解説やコメンテーターとしての顔も持つ。

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著者プロフィール

大阪府出身。フリーアナウンサー、スポーツライター。四国放送アナウンサー、NHK高知・札幌キャスターを経て、フリーへ。2011年に番組でパラスポーツを取材したことがきっかけで、パラの道を志すように。キャッチコピーは「日本一パラを語れるアナウンサー」。現在はパラスポーツのほか、野球やサッカーなどスポーツを中心に活動中。

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