スノーボードの真髄を示した平野歩夢の戴冠 「通過点」の金メダルを野上大介が解説

久下真以子

圧巻の滑りで悲願だった五輪の金メダルを獲得した平野歩夢。その視線の先にはどんな未来を描いているのか 【Photo by Maja Hitij/Getty Images】

 11日、北京五輪のスノーボード・男子ハーフパイプ決勝が行われ、2大会連続銀メダルの平野歩夢(TOKIOインカラミ)が、96.00点で優勝。悲願の金メダルを獲得した。日本人全員が決勝に進んだが、平野海祝(日大)が9位、戸塚優斗(ヨネックス)が10位、平野流佳(太成学院大)が12位となり、平野歩夢に続くことはできなかった。

 今大会での現役引退を表明したショーン・ホワイト(米国)も85.00点で4位。「キングオブキング」のラストに会場からは拍手喝采が起き、平野歩夢との抱擁は多くの感動を呼んだ。東京五輪のスケートボードに出場し、わずか半年で今度はスノーボードで世界の頂点に立った平野歩夢。偉業を成し遂げられた要因は何だったのか。複数ブランドの契約ライダーとして活躍し、現在はスノーボード専門メディア「BACKSIDE」の編集長を務める野上大介さんに、平野歩夢の勝因を聞いた。
 

見る者を魅了した圧巻の「トリプルコーク1440」

圧倒的な高さで、五輪史上初のトリプルコーク1440を決めた平野歩夢 【Photo by Matthias Hangst/Getty Images】

 もう「すごすぎた」の一言ですね。2本目の滑りが思うように点数が出ずに納得がいかず、「怒りを表現できた」という本人のインタビューがありましたが、3本目は彼が出せる最大限のパフォーマンスを披露しました。スケートボードのパークに日本代表として出場した東京五輪が終わってからの半年間、自分のスタイルで「チャレンジャー」の意識で駆け抜けた。その集大成が「トリプルコーク1440(縦3回転横4回転)」であり、一貫して他の選手というより「己と戦っていた」ことを感じさせられましたね。

 2本目の滑りは91.75点と、スコット・ジェームズ選手(オーストラリア)にわずかおよばずの2位でした。私だけではなく、見ていたみなさんも「思ったより点数が低い!」と思ったのではないでしょうか。でもよく見てみると、1ヒット目のフロントサイドトリプルコーク1440(進行方向に対して腹側に縦3回転、横4回転)が3本目のそれに比べるとほんのわずかに着地がずれているんですよね。その影響で減速し、2ヒット目のキャブダブルコーク1440(スイッチスタンスで進行方向に対して腹側に縦2回転、横4回転)の高さが3本目より出ませんでした。結果的に見て2本目のほうがベストではなかったので、それを見抜いているとしたらジャッジはすごいですが、やはり点数は低すぎたと思います。

 ジェームス選手は今大会、トリプルコーク1440を出していません。それにもかかわらず2本目で1位につけていたのは、フロントサイド(進行方向に対して腹側に回転)、バックサイド(背中側に回転)、キャブ(スイッチスタンスで腹側に回転)、スイッチバックサイド(スイッチスタンスで背中側に回転)の4方向のジャンプを1つのルーティンにすべて組み込んでいたのが評価されたと思っています。

 歩夢選手が言っていましたが、高難易度の技になると「トリック中に息をしている暇がない」そうです。それくらい空中でいろんな動作をしているからなんですね。歩夢選手のルーティンはトリプルコーク1440とダブルコーク1260、ダブルコーク1440という高難易度のトリックばかりで構成されていたので、呼吸が持たないと5ヒットすべてを決めて完走はできなかったでしょう。さらに五輪史上初のトリプルコーク1440を成功させているので、大変な偉業を成し遂げたと言えます。
 

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著者プロフィール

大阪府出身。フリーアナウンサー、スポーツライター。四国放送アナウンサー、NHK高知・札幌キャスターを経て、フリーへ。2011年に番組でパラスポーツを取材したことがきっかけで、パラの道を志すように。キャッチコピーは「日本一パラを語れるアナウンサー」。現在はパラスポーツのほか、野球やサッカーなどスポーツを中心に活動中。

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