逆転Vに「いま感じているのは達成感」 F1王座奪還のホンダ、田辺TDが語る劇的最終戦

柴田久仁夫(auto sport)

ホンダ田辺F1TD(中央右寄りの白シャツ)に劇的な最終戦直後の思いを聞いた 【Getty Images / Red Bull Content Pool】

 今年いっぱいでF1世界選手権からの撤退を決定しているホンダ。そのホンダ製パワーユニット(PU)を積んで走るマックス・フェルスタッペンは、今季最終戦の最終周で絶対王者ルイス・ハミルトンをかわし、劇的な逆転優勝。自身初となるワールド・チャンピオンの座に就いた。

 ホンダがF1でドライバーズ選手権を獲得したのは、1991年のアイルトン・セナ以来、じつに30年ぶり。最前線で陣頭指揮を執る田辺豊治テクニカルディレクターに、率直な胸の内を聞いた。

「勝ちにこだわった開発を続けた」

最終周で、フェルスタッペンがトップに立ち優勝を果たした 【Getty Images / Red Bull Content Pool】

──30年ぶりのタイトル獲得、おめでとうございます。

田辺豊治(以下、田辺TD) ありがとうございます。ホンダにとってF1最後の年の最後のレース、そしてその最終周で、マックス・フェルスタッペン選手がトップに立って優勝を果たした。最後の最後まで、本当にいろいろなことがありました。非常に難しい状況のなか、最高の結果を出すことができました。

 一方で4台完走4台入賞、そしてタイトル獲得というのを今回も目標に掲げましたが、残念ながらセルジオ・ペレス選手のPUに異常が見られて、最後の最後にリタイアせざるを得ませんでした。

──アルファタウリ・ホンダは、今季最高の結果でした。

田辺TD F1初挑戦の角田裕毅選手はシーズンの出だしは良かったものの、中盤以降は苦しい時期を過ごしました。それでも厳しい競争のなかでF1というものをしっかり学んで、精神面でも大きく成長した。その結果が今週末、予選とレースの両方できちんと出て、自己最高の4位入賞につながったんだと思います。

 ピエール・ガスリー選手はちょっとクルマを詰め切れないところがあって、それでも5位でした。ホンダユーザーの4台が、本当に良い形で戦えた1年だったと思います。

──今回のドライバーズ選手権制覇は、ホンダF1の集大成だった?

田辺TD 2015年からの7年間、非常に苦しい時代を過ごし、そこから徐々に上向いてきた。それでもまだ去年は、王者メルセデスに大きく離されている状態でした。それが今季は、ドライバーズ、コンストラクターズの両選手権で、彼らと互角に戦える位置にまで来ることができた。それは素直にうれしく思っています。

 残念ながらコンストラクターズ選手権は取れませんでしたが、われわれがここまでやってこられたのは自分たちの技術を信じ、勝つために何をすればいいのか、そして勝つんだという強い気持ち、勝ちにこだわった開発を続けた技術陣のおかげです。さらにそれを支えた周辺組織、そして彼らを海外に送り出す家族のサポート、それらすべてがあっての今日の結果でした。

──最終戦は最後の1周にドラマがありましたが、チェッカーが振られた瞬間の田辺さんの気持ちは?

田辺TD 素直にうれしかったです。そしてここまで長年にわたって支えてくれた彼ら、彼女らへの「本当にありがとう」「本当におめでとう」という気持ちが湧いてきました。

「ホンダは常に1番を目指してきた」

レース直後に山本雅史マネージング・ディレクターと喜びを見せる田辺TD(左) 【オートスポーツ】

──今回のタイトルはホンダにとっては1991年のアイルトン・セナ以来、30年ぶりの栄冠です。ホンダにとってどんな価値がありますか?

田辺TD ホンダがレースに参戦する際には、カテゴリーを問わず常に1番を目指してきました。それがF1ではこの30年間、獲ることができずにいた。特に2000年代の第3期は、私も関わっていましたが、ジェンソン・バトンがハンガリーGPで挙げた1勝にとどまった。

 さらに今回の15年からの第4期も、出だしは非常に厳しかった。それが今回、自分たちの技術の証し、努力の証しとして、タイトルを獲ることができた。ホンダを応援してくれている人たち、一緒にやってくれている人たちに、応援のしがいがあった、あるいは一緒にやってきてよかった、そんなふうに感じてもらえればと思います。

「1番じゃなきゃダメですか」という言い方がありますよね。私は一番に向かって努力する、その過程が大事なんだと思います。結果として1番じゃなきゃダメかというと、1番を目指して本気でやったかどうかというのが、自分の肥やしになると思っています。

 マックス選手のタイトル獲得は本当に良かったと思いますが、一方でコンストラクターズ選手権は逃した。でもわれわれは本気で、すべてのレースに勝つ気で来ていました。勝ちにこだわったその努力とこだわりは、貴重な体験になると信じています。もし両方獲れなかったとしても、ここにくるまでの経験は非常に生きるものだったはずです。

──これで7年間のF1活動を終えますが、いまの感情は寂しさですか。それとも最高の形で締め括れたと、感無量の気持ちでしょうか?

田辺TD さきほども日本の開発拠点HRD Sakura(栃木県さくら市)と連絡を取り合って、そんな話をしていたのですが、最後の最後にマックス選手がチャンピオンになったという、その達成感ですね。いまの時点で感じているのは。

最後の最後にマックス選手がチャンピオンになり、田辺TDは「達成感」を感じていた 【Getty Images / Red Bull Content Pool】

──最後に大逆転優勝を果たしましたが、終盤まではペースも劣っていて非常に厳しい展開でした。あの時点では「これはちょっと無理かな」という気持ちだったんでしょうか?

田辺TD そうですね。レースは終わるまで何があるか分からないわけですが、ただ実際にはある程度結果が予想できてしまったりする。レース後半、マックス選手がタイヤ交換してハミルトン選手を追い上げているときも、残り周回数に対してタイムの縮まり方が充分ではなかった。このペースではちょっと、チェッカーまでに追い付くのは難しいかなと思いました。もし最後に追い付いたとしても、ハミルトン選手はそれまでの走り方を変えて、オーバーテイクを何とか阻止しようとするでしょうしね。

 ただ一方で、“やってみないと分からない”というのは、良い意味でも悪い意味でもいままで何度も経験している。これはいけると思っていても、タイヤが破裂して敗れたり、あるいは接触事故に見舞われたり。その逆もあった。だからとにかく最後までしっかり走らせる。そして事態が変わったら、迅速に対応する。そんな気持ちでやっていました。

──外から見ていると、ただただドラマチックな展開のレースでしたが、何がこの劇的勝利をもたらしたと考えますか?

田辺TD この勝利に関しては、本当にチームワークの賜物だと感じました。それはホンダ内だけでなく、レッドブル、アルファタウリも含めてですね。

「ホンダが最後だから、精いっぱい頑張ろう」とみんなが思ってくれた。そしてマックス選手をチャンピオンにするための、ペレス選手を始めとするチームワークですね。それが非常に感じられました。アルファタウリの面々も、自分たちも素晴らしい結果を出したわけですが、マックス選手のタイトル獲得をすごく喜んで、チェッカー直後にはみんなが表彰台に駆け寄ってくれた。本当に素晴らしいチームワークでした。
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