「勝てるペアスケーターになりたい」 三浦璃来/木原龍一組が急成長した理由

沢田聡子

コロナ禍の世界選手権で、さらなる信頼感を身に着ける

コロナ禍で行われた世界選手権で北京五輪の出場権を獲得し、二人の絆はさらに強くなった 【坂本清】

 三浦と木原、そして指導陣との絆は、コロナ禍に見舞われた昨季を共に乗り越えたことで強くなったのかもしれない。三浦/木原はカナダを拠点としていることに加え、出場カップルが一組だけであること、また日本スケート連盟に送っていた演技の映像が評価されたこともあり、昨季の全日本選手権出場を免除されている。2022年北京五輪の出場枠がかかった世界選手権がシーズン初の試合となるのは異例の事態だったが、二人はカナダで充実した練習を積んでいたようだ。世界選手権のショートプログラムで『ハレルヤ』のゆったりとしたメロディに乗って披露した二人の滑りは、見違えるように伸びやかになっていた。

 ショート8位と好発進し、他のパートナーと出場した大会も含め世界選手権で初のフリー進出を果たした木原は、次のように語っていた。

「カナダは日本よりまだ少し規制が厳しいところが多いので、なかなか日本に帰国することができずに、一年間カナダの方で過ごさせていただいた。やはり通常の時期に比べて、二人で乗り越えないといけないことがかなり多くて、不安なことや辛いことはたくさんあった。それを乗り越えてきたので、二人ともすごく信頼関係が高まったんじゃないかなというふうに、僕自身勝手に思っています」

 一方、「ナーバスになりやすい」という三浦にとっては、初めての世界選手権だった。

「現地入りした練習初日から、もう会場が大きすぎて、緊張でずっとお腹が痛くて。いつもテレビで観る世界選手権だったので、本当にすごく嬉しいという気持ちと、緊張で空回りする気持ちが入り混じっていました」

 そんな三浦を落ち着かせてくれたのは、木原の一言だったという。

「滑る直前に(木原に)私と組めてよかったと言ってもらえて、それで緊張がほどけました」

 フリー『Woman』では、スロージャンプでの転倒があったものの、ショートに続き二人の成長ぶりを感じさせる滑りを見せた。総合10位となって見事に北京五輪の出場枠を獲得したが、ショート後「今回、世界選手権の目標はフリーに進出することではなかった」と口にしていた木原は満足していないようだった。

「僕自身、100%仕上げてきたつもりだったんですが、やっぱり試合が始まってしまうと緊張してしまって、体が少し重く感じてしまった。今日は『それが試合勘のなさかな』というのも少し感じてしまいました」

 ショートで8位につけていた二人は、世界のトップに位置するペアと同じグループで滑っている。その緊張感もあったかと問われた木原は「逆に、練習から、普段はるか彼方にいた選手たちの足元が少し見えた気がしたので、僕自身すごく嬉しくて」と高揚感をにじませた。

「練習から、『ようやくここまで来られたんだ』と感じていたので。でも、現実は厳しかったです(笑)」と付け加えたものの、木原の目は輝いていた。

「技術的な面に関しては、自信を持って試合に臨めるものが毎シーズン増えてきている。エレメンツだけにならずに、つなぎや二人だけの世界観というのはまだまだ表現できていないと思うので、そういったところを磨くことが世界のトップの人たちに挑戦していくのに必要かなと思っています。
 
 僕自身、ペアスケーターになって8年目で、ようやく世界の舞台で戦える自信が少しずつつき始めてきている」と手応えを語った木原は、力強い言葉を残していた。

「勝てるペアスケーターになりたいです、二人で」

北京五輪シーズン、二人で滑る喜びを感じて

五輪シーズン、「共に滑る喜び」を観客に感じさせながら、さらに上のレベルを目指していく 【坂本清】

 その言葉通り、北京五輪シーズンとなる今季、三浦/木原はスケートアメリカで2位・NHK杯で3位と快進撃を続けている。何より魅力的なのは、二人の共に滑る喜びが、観る者にも伝わってくることだ。進出を果たしたグランプリファイナルの中止は残念だったが、昨季から困難を共に乗り越えてきた二人は、さらに上を目指して進み続けるだろう。

 銅メダリストとして登場した今季NHK杯の記者会見で、二人はお互いについて語っている。

「私のパートナーは心が本当に強いので、練習でも試合でも引っ張ってくれる存在です」(三浦)

「本当にペアスケーターとしては120%信頼していますし、そのメンタルの強さは僕も見習わないといけないな、と日々思っています」(木原)

「ただスケートリンクを出た後は、詰めが甘かったり忘れ物が多かったり、とにかくあまりしっかりしていないので、すべてにおいてしっかりサポートしていかないと」と付け加えた木原。今もカナダで大切なパートナーの面倒を見ながら、共に滑りを磨いているはずだ。

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著者プロフィール

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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