充実のシーズンで成長を続ける宇野昌磨 過去2年なかった「当たり前」に気づく
大会前から感じていた成長
自己ベストを更新してNHK杯を制した宇野。自身のすべてに成長を感じているという 【提供:坂本清】
NHK杯(東京・国立代々木競技場)の開幕前日となる11日、公式練習で4種類の4回転を着氷させて好調さを印象づけた宇野昌磨は、この1年で成長を実感している部分を問われ、そう答えている。
「“別人”ではないですけれど、本当に今、すべてが向上していて。精神的にもスケートにうまく向き合うことができています。しかも、うまくなりたいという意欲ばかりが強くなり過ぎず、自分を追い詰めずに、ちゃんと自分と向き合いながらスケートと向き合えているところなど、諸々含めて全部、という感じです」
その言葉通り、翌日ショートプログラムに臨んだ宇野は、冒頭の4回転フリップを皮切りに3つのジャンプを加点のつく出来栄えで決め、102.58と100点を超える高得点をたたき出して首位に立つ。しかし演技後の宇野はスタンディングオベーションの中、頭をかきながらリンクを降り、リモート取材では悔しさを口にしている。悔やんでいたのは、4回転トーループ-3回転トーループを予定していたコンビネーションのセカンドジャンプを2回転にして、確実に決める選択をしたことだ。
「率直な感想としては、出来のいい・悪いではなく、どんな理由であれ、セカンドのトリプルジャンプをダブルにしてしまったという結果が、悔しいというかよくないなって。今シーズン、まだまだ長いです。今はまとめにいく時期ではないと分かっていながらも、空中の一つ目のジャンプの少しのぶれから、挑む気持ちというのがそこで少し足りなかったのかなと思います」
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偶然ではなく必然で跳べた冒頭の4回転
強い口調に成長への意志をにじませた宇野は、翌日のフリー『ボレロ』で、4回転ジャンプを4種類5本組み込む高難度構成に挑んだ。
鍵となるのは、冒頭に配した二つの4回転ジャンプだと思われた。一つ目は、平昌五輪シーズンを最後に封印しており、今季再び挑んでいる4回転ループ。3.30という高い加点がつく出来栄えで決め、続く4回転サルコーも成功させる。「他の(4回転)ジャンプと比べると、やはりループ・サルコーの確率というのは大きく下がってしまう」と宇野自身語っていた二つのジャンプを決め、これ以上ない好スタートを切る。
サルコーとトーループ、ポイントとなる2種類の4回転ジャンプを成功させられた要因を、宇野は「この数日間ではあるのですが、サルコーが飛躍的に跳べるようになったこと」と語っている。
「ループに関しては練習でも少しずつ確率が上がってきていた中で、サルコーが『どうしても跳べない』という感じだったんですけれど、現地に入る3日前くらいからサルコーが急によくなって。イメージがいいまま現地に入り、現地に入っても『サルコーが一番跳べるんじゃないか』というくらい確率はよかった。試合でも、本当に練習と同じメンタル、氷の感触で滑ることができていた。試合で偶然跳べたというよりも、本当に最初の二つはちゃんと必然で跳べたジャンプだったかなと思います」
ただ、ショートで悔やんでいた4回転トーループ-3回転トーループを予定していたコンビネーションのセカンドジャンプは、またも2回転になる。さらに、後半に組み込んだジャンプにも乱れが出た。得意としている4回転フリップが2回転になると、続いてコンビネーションを予定していた4回転トーループの着氷で前傾し、単発のジャンプになってしまう。トーループについて、演技後の宇野は「現地に入ってから、ちょっと自分の感覚とずれが生じていた」「いつもの自分のジャンプが跳べていなかった」と振り返っている。
最後のジャンプとなるトリプルアクセル-オイラー-3回転フリップは成功させ、動きの激しいステップシークエンスを滑り切った宇野は、スタンディングオベーションの中、腰に手を当てて首をかしげ、ちょっと納得いかないような顔をした。しかし、4種類5本の4回転と密度の濃いステップシークエンスが組み込まれた『ボレロ』は、間違いなく完成に近づいている。フリーの得点は187.57、合計は自己ベストを更新する290.15で、宇野は優勝とグランプリファイナル進出を決めた。