充実のシーズンで成長を続ける宇野昌磨 過去2年なかった「当たり前」に気づく

沢田聡子

「世界にちゃんと通用する選手に戻ってこられた」

3年ぶりGPシリーズ優勝でファイナル進出を決めた宇野。今季は充実感に満ちたシーズンを過ごしている 【提供:坂本清】

 宇野は、今季の試合で大きな手応えを得つつある。

「今シーズン、まだ3試合しかやっていないですけれども、本当に濃いシーズンを送ることができていて、この3試合でようやく自分が世界にちゃんと通用する選手に戻ってこられた。でも、これは今までの自分の立ち位置で、もっと先を目指して練習していきたいなと僕は思っています」

 モチベーションを高く保って意欲的に今季を送っている宇野は、今までになくスケートへの思いが深くなっている理由を問われ「うーん、言葉にするのは難しいんですけれども」と考えながら言葉を紡いだ。

「僕は、『スケートを頑張らなきゃ』って思ったシーズンもありました。ただ『頑張らなきゃ』って思うと、それは自分の首を絞めるというか、辛いスケートを送る日々につながりました。なので『スケートを楽しむ』『頑張り過ぎない』、それをモットーにやるようにしていました。でも、やはり僕もスポーツ選手なので、それでも『成績を残したい』『成長したい』そういう気持ちも心のどこかにありながら、それから逃げるというか、あまり自覚しないようにやっていた。

 でも周りの環境を見ると、どんどん成長していく若い世代だったり、自分を支えてくれている皆さんの期待だったり、僕が世界一になれる実力を持つことができると信じてくれているステファン(・ランビエールコーチ)、いろいろな人の期待に応えたいと思って『僕はもっとできるんじゃないか』って。それに伴い偶然調子も上がっていたので、いろいろなことが重なり『今はやった分だけ成長できる、こんなに楽しいことはない。これを逃さないように、やれることをやりたい』と思って、今は生活すべてをスケートに向けてやっています」

大きな大会が増えたという嬉しさ

 開幕前日の公式練習後には、宇野は試合とコーチの大切さについて語っていた。

「『たくさん試合に出たいな』というのは、やっぱりありますね。やはり試合があるとなると、もちろん焦りというものも生まれたりはするんですけれども、その少しの焦りも必ず必要だと思っていて。『この試合に自分を合わせなければいけない』という気持ちで練習できるのは、やはり日々の練習でもメンタル的に支えてくれる。去年はそういったものがなかったですし、一昨年は、試合はあるもののコーチという存在がいなかったこともあった。今まで当たり前に練習をしてきましたけれども、『当たり前の中にいろいろな人、いろいろなものの支えがあったんだな』と実感しています」

 コーチ不在で臨み前半は不調に苦しんだ一昨季、コロナ禍で試合が少なくなった昨季を経て、宇野は充実感に満ちた今季を過ごしている。

「ファイナルには、本当に久々に出ることができます。『ファイナルだから』という気持ちは正直ないんですけれど、僕には今シーズンまた一つ大きな大会が増えたという嬉しさがある。そして、もっと成長した自分を見せることができる場だと思って、その日に向け全力で取り組みたいと思っています」

「当たり前」の練習と試合の大切さに気づいた宇野は、成長する楽しさを味わいながら、ただひたすら前進している。12月9日から大阪で行われるグランプリファイナルでは、さらに成長した宇野の滑りを見ることができそうだ。

2/2ページ

著者プロフィール

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント